「三年目にも行って一〇八刀を受けたからです。でも今度は虎五人に傷を負わせました」
「そんな人なのに江南七虎は恐れなかったの? なぜまた生かしておいたのかしら?」
「その時の彼らはまるで虎の背に乗ったようにどうしようもない状況だったからです。この事件が江湖に大きな波紋を投げ掛け、噂を聞いた人達が見物しようと虎丘山に押し寄せたからです」
「それで一〇八刀以内に秦歌を殺さねばならなかったのね。一〇八回斬り終えた後では、さらに攻撃しようがなかったから」
「その通りです。江南七虎のような者達が大勢の江湖者の見ている前で対面を汚すような真似は出来ないでしょう。そうなれば以前のような恐怖の対象とされなくなるでしょうから」
「それでも彼らのうち五人も怪我をしているのに、他の人達はどうしてそれに乗じて彼ら全員をやっつけてしまわなかったのかしら?」
田思思の問いに田心が答える。「それは秦歌が必死になって耐え抜き、またとてつもない苦痛を受けたという事を人々は皆知っていたからでしょう。皆、秦歌が功を立てて江南七虎を討つ事を願っていました。三二四刀を受ければそれ以上はなかったからです」
彼女の瞳にも光が射した。「そうして最後の一刀を受けた後、秦歌が依然として生きているのを見た人々は誰も彼もなく歓呼の声を上げました」
「それが最後の一刀だという事を七虎は知らなかったのかしら?」
「それは彼らも内心で数えていたでしょう。そして四年目には多くの助力者を求めて山に招いたのです。その為に他の人達も彼らに手を出せなかったでしょう」
「それで四年目はどうなったの?」
「四年目には七虎の助力者がさらに増えました。でも七虎の仲間達も秦歌には感嘆せざるを得ませんでした。それで戦いが始まった時に誰も七虎を助けなかったのです。秦歌が最後の一人を討ち取るや、歓呼の声が虎丘山に響き渡りました。一〇里外にも聞こえる程に」
田思思は香から立ち上る煙を呆然と眺めた。あたかも首に赤い手拭を巻いた黒衣の青年が煙の中からゆっくりと歩み出て人々の歓呼に笑顔で応える姿が見えるかのように。
田心が言う。「その時になって秦歌の顔に始めて笑みが浮かびました。自信に満ち溢れながらも苦痛じみた笑いでした。おそらく恋人が死んだ為にその栄光も目に入らなかったのでしょう」
彼女は軽く溜め息をついた。「その日から『鉄人』秦歌の名は江湖に広く知れ渡ったのです」
田思思も軽く息をついて言う。「本当に偉大なる大人物だわ」
(この項続く)
PR