古代中国は秦王国の大臣で商鞅(本名は公孫鞅)という人物がいた。当時まだ辺境の田舎だった秦に厳格な法制度を作り、それで富国強兵を成し遂げた大臣だ。だが商鞅はあまりにも苛烈な厳罰主義で挑んだ為に旧勢力である貴族達から恨みを買い、国王が代替わりしたのをきっかけに謀反の濡れ衣を着せられて、あわてて夜逃げせざるを得なくなった。その逃亡中に宿に泊まろうとしたのだが「商鞅様の定めた法により、旅券のない方は泊められません」と言われて追い出されてしまう。結局商鞅は己の作った法によって手痛いしっぺ返しを食らう事になったのだ。それも自分が一番ピンチの時に。己の作ったルールや法によって命をなくすというこの故事から、「作法自斃」という言葉が後に生まれた。朝鮮半島や中国ではよく用いられる成句だが、日本ではあまり使われないかもしれない。日本ではむしろ「自縄自縛・自家撞着・自業自得」などの方が多く使われるようだ。いずれも同じ意味である。
作法自斃 작법자폐・自縄自縛 자승자박・自家撞着 자가동착・自業自得 자업자득
今の日本でこれら四字熟語に一番ぴったりな状態に陥っているのは安倍晋三ではあるまいか。例の拉致被害者再調査の件だ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140922-00000027-mai-int
<安倍首相>拉致調査 北朝鮮に早期の報告求める考え
当初は9月上旬とされていた調査報告は先送りになったようだ。これは要するに日本側の期待したような内容が(朝鮮からの事前説明に)なかったという事であろう。日本側の期待する内容、すなわち2002年の小泉訪朝時に死亡と発表された拉致被害者や入国記録なしの日本人関係情報や、その後根拠ゼロで日本右翼の妄想の赴くまま大量にでっち上げた「特定失踪者」について目新しいネタが何もなかったか、大した話が出て来なかったという事だ。制裁一部解除までしておいて、これではさすがに発表する事は出来ないだろう。これは筆者の予想だが、朝鮮側からの「事前説明」にはおそらく敗戦後残留日本人の遺骨や死亡記録、日本人配偶者のネタはかなり多く含まれていたのではなかろうか。もちろんこれらは朝鮮側としても早めに清算しておきたい問題であり、だからこそ拉致被害者の再調査とセットという形で仕切り直すという条件に応じたのだろう。坂中英徳がこのアイデアは俺が発案したんだ、と何やらエラソーに自慢話をあちこちで言いふらしているらしいが、まあ坂中(元入管幹部。日本の「国益」に何の足しにもならないクルド人難民を情け容赦なく国外退去させた「実績」あり。そのくせ、朝鮮に対する外交カードとして利用し甲斐がありそうな脱北者だけは保護)の言う事なぞ眉に唾つけて話半分に聞くのが無難である。
それはともかく、それ以前の重大な問題として、安倍政権・日本政府にとって残留日本人や日本人配偶者の存在ってどうなのよという話だろう。今の日本政権がこうした人達の去就や人道問題に興味持つと思って? どう見たってそんな訳ないよね。在特会やネオナチと仲良くしようぜで今をときめく安倍だの山谷えり子だのが、そんな大昔の「棄民」に情を掛けたりしたら、それこそ異常事態だろう。朝鮮民主主義人民共和国を圧迫し、日本国内の「不逞鮮人」を抑圧する口実として、また自分らの票稼ぎとして拉致被害者の新しい情報は何としても欲しいが、そうでない大昔の「棄民」の事など安倍達にとってはどーでもいいという事だ。誰だって簡単に分かる話だろう。坂中が、政治利用し甲斐のある脱北者は一応大事にするのに、そうでないクルド人難民とかは虫けらのように扱ったのと同じ事だよ(笑)。
残留日本人や日本人配偶者について朝鮮側がいかに質・量ともに充実した誠意ある調査結果を出した所で、安倍政権・日本政府はそんな「どーでもいいオマケ」にはほとんど興味がないし、それを労う事などあり得ない。もちろんさらなる制裁解除や国交正常化・経済協力などする気もないだろう。
日本でも韓国でも「安倍はアメリカの圧力に抗してどこまで北朝鮮と話を進められるか」という言い方をする人間が結構いる。だがアメリカはあまり関係ない。日本の対朝制裁は国連やアメリカの制裁をも超越して独自に行ったものであり、完全な「日本マター」という事だ。この「事実上の有事法制」を解除するもしないも全的に日本の胸一つに掛かっている。アメリカがどうのというのは逃げ口上でしかない。
元より安倍は外交上の約束を破ってまで自分を「拉致問題のヒーロー」に押し上げて首相になった人間ではないか。だから朝鮮がどれだけひどい国か、何百人も日本人を誘拐したぞという根拠不明な右翼のデマに乗っかり、あるいは自分も積極的にそれを扇動し続けて来た。ところがそれが後に安倍自身を縛る事になる。その後の拉致問題の交渉に全く進展がないという批判だ。本来安倍の立場からすれば、そんなものは適度に無視するか、嘘でも不渡り空証文でも切ってお茶を濁せば済むだけの話。朝鮮に対してはずっとそうしてたじゃないか(笑)。自分の任期の間はほっときゃいいものを、それを下手に事態を進展させようとして無理な手を打ったと思う。
「横田めぐみは生きている。死亡とされた他の人達も生きている」
「数百人の特定失踪者を北朝鮮から取り戻す」
こうした大見得を切って首相の座に上る事2度、だがそのスローガンが結局自分を縛る事になった。厳罰法治主義で秦の大臣に大出世しながら、それが結果的に己を縛る事になった商鞅と同じではないか。まさに作法自斃である。
もっとも商鞅とは違い、これが安倍政権の致命傷になる事はないだろう。いざとなったら「北朝鮮側の不誠実な対応」といういつものパターンでウヤムヤにするはずだ。読売・産経からアジアプレスまで、そうした論調で安倍を庇ってくれるだろうから。残留日本人遺族の墓参や日本人配偶者の処遇にも何ら進展なく、対朝関係や在日朝鮮人の人権問題は好転どころかむしろ悪化するだけに終わるだろう。そうなった場合、それらは全的に日本政府に責任がある。死んだ人間を生かして帰せという無茶な、あるいは何百人も拉致被害者がいるという荒唐無稽かつ残酷な一方で大いに政治利用し甲斐のある「調査結果」に妄想で胸躍らせて期待していた日本側にだ。
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