今回は朴裕河問題や、それとも密接な関係がある昨年末の慰安婦日韓合意にまつわる(それも日本ではあまり知られていない)トピックをいくつか御紹介しておきたい。
1)狐假虎威
裁判で敗訴した朴裕河(もちろん控訴するようだが)のフェイスブックは相変わらず凄絶極まりない。最近は載ってる文章以上にトップ画像に絶句させられる。
大江健三郎と朴裕河のツーショットッッッッ! 凄すぎ。
この画像を載せた際の朴裕河の魂の叫び(推測)を文章化したものが以下になります。
「俺様のバックには恐れ多くも日本のノーベル文学賞作家であらせられる大江健三郎大先生がついているんだぞおおおおおッ! 恐れ入ったかあああああッ!」
…「俺様のバックにはエライ政治家の先生様がついているんだあああああッ!」と粋がってた
いつぞやのエロ漫画家と全くおんなじで、幼稚さと俗物根性がアマルガムされてもはや誰にも救いようのない精神状態に陥ってるのは誰が見ても分かるだろう。この写真は朴裕河にとっては己の権威付けと同時に、他者の攻撃を回避する為の「魔除け」みたいな物だという事が良く分かる。
朴裕河という女がこれまで売名と出世の為に使って来た最大の手段こそ、大江のような「日本の良心的知識人」達と親密なコネを築く事だった。早い話がいわゆる「ジジ殺し」というやつで、基本的には辛淑玉や李信恵らと何も違わない。と言うか、その方面の手並みに関してのみ言えば、辛や李よりも朴の方がはるかに上手で巧妙だと思う。和田春樹や若宮啓文がこれまで朴裕河に対してほぼ「保護者」か「プロデューサー」のように振舞って引き立てたのは有名であるし、柄谷行人も朴裕河とはこれまで自著の翻訳ばかりか対談もするなど近しい関係を築いていた。大江健三郎にいたっては自著の翻訳に加えて、
韓国へ行った際の通訳などのコーディネイトまで丸々朴裕河にやってもらったほどの間柄なのだから、昨年の声明に名を連ねたり今回のようにフェイスブックに写真を載せさせるくらいは当然なのであろう。これだけ「豪華」な日本の「オヤジ」どもを後見人代わりに仕立て上げる手並みについてだけ言えば、辛淑玉や李信恵では到底足下にも及ぶまい。辛淑玉や李信恵がこれまで篭絡出来た「オヤジ」なんて石丸次郎だの野間易通だの佐高信程度がせいぜい、それも実際には「篭絡した」と言うよりむしろ「篭絡された」というのが本当の所なのだから、元より比較にもならないだろう。
それはともかく、こうした「日本の良心的知識人という事になっている(脂ぎった)オヤジ軍団」を味方に付けるというのは、韓国の論壇や文壇や報道界において絶大な意味を持って来る。これまで何度も述べた事があるが、韓国の知識人や報道人というのは右派(朝鮮日報など)も左派(ハンギョレなど)もおしなべて「日本の良心的知識人や言論人チョー最高!」という、奴隷根性・植民地根性・事大主義根性丸出しの連中が大部分で、和田春樹だの柄谷行人だの船橋洋一だの大江健三郎だのの名前を聞いただけで平身低頭して神様のごとく崇拝してありがたがる気風が強いからだ。当然こうした日本の「オヤジ」どもと面識があるだの一緒に仕事をした事があるというだけで、向こうの論壇では超うらやましがられる。朴裕河があれだけ無茶苦茶な、それも旧来の植民地近代化論者やニューライトと何も違わない事を言い続けておきながら、いまだにデカいツラしてのうのうとしていられる最大の理由が何か。韓国の右派も左派も関係なくこの女をもてはやしてきた理由は何か。もうお分かりだろう。
「和田先生が後見人(みたいなもの)だって?」
「朝日の若宮論説主幹が手ずからプロデューサー役(みたいなもの)を務めただって?」
「大江先生の訪韓を通訳から何から取り仕切っただって?」
「僕達韓国報道界の憧れの星(笑)であらせられる、柄谷先生とマブダチだって?」
…こういうバックがあれば、もう韓国の論壇ではやりたい放題だ。朴裕河の言ってる事がどう見てもおかしいと思っている編集者や記者が韓国にいても、和田だの大江だのを「後見人」代わりにしている女を無下に扱える訳がない。むしろ大半の者はそのコネに目がくらんで朴裕河にゴマをすったり、「俺を子分にして下さいいいいいッ!」状態になるだろう。朴裕河の最も狂信的で忠実な信者に成り果てた小説家の
蔣正一なんかは典型だ。朴裕河の支持声明に名を連ねた194人の韓国側声明賛同者の中には熱心な信者やシンパや政治的に利用しようと近付いた覚めた(冷めた)確信犯達ももちろんいるが、大半は朴裕河の著書や日頃の発言すらまともに読んではおらず、この女のバックに付いている「パパ」達の豪華さに幻惑された者も非常に大きいと筆者は推測する。その結果、つまり以下のように考えてしまう訳だ。
「朴裕河教授は、日本を代表する良心的知識人であらせられる和田春樹教授に支持されているのだッッッッ! 貴様それでもなお朴裕河教授を『日本右翼の代弁者』呼ばわりするというのかッッッッ!」
朴裕河という女はこうした「パパ」達を大勢抱える事で、これまで我が世の春を謳歌してきたのである。
が、しかし…。
その栄華にも陰りが見えて来たと筆者は感じる。今回は前口上まで、その辺についてまた次の機会に詳しく述べてみたいと思う。
そもそも今回のフェイスブックの画像、朴裕河の「パパ」衆の中でも権威面ではピカイチ(ノーベル賞)な大江健三郎をわざわざ出して来て、この女内心では相当慌てているはずだ。何しろ裁判に負けたり、
韓国で反対派の声明賛同者380人(その後増えて、支持派声明賛同者の約2倍に!)から公開討論会を提案されながらも恐くなって逃げ回っている有様なのだから、「手駒」の中で一番強いのを指さざるを得なくなったのだろう。だが朴裕河は根本的な勘違いをしている。果たして「手駒」はどっちかな…?
2)忍気呑声的論理
韓国の政治家である安哲秀(안철수 アン・チョルス)について述べておきたい。日本でもそれなりに知られている人物だが、安哲秀は元々IT企業の成功者として有名であり、それが2011年頃からソウル市長選挙など政治に深く関わるようになって、2012年の大統領選挙では有力候補にもなった人物だ(最終的には辞退して民主党の文在寅に譲歩)。その後補欠選挙で国会議員に当選して民主党に合流するものの、最近また脱党して新党「국민의당 国民の党」の立ち上げ準備をしている。朴槿恵セヌリ党政権があまりに酷いので、その対抗馬たる有力野党の一つとしてこの安哲秀とその一派に期待する者が韓国はもちろん、在日同胞で本国の状況にある程度関心のある者の中にもそれなりにいるだろう。だが、果たしてどうかな…?
その安哲秀は先の慰安婦日韓合意をどう見ているのか? この合意の直後、安哲秀のホームページに当人の立場表明が掲載された。以下に安の主張部分を抜き出して訳す。
http://ahncs.kr/?p=77718
韓日間歴史問題は外交的妥結で終わらせられない事案だ
1)日本軍の関与責任を明示し、内閣総理大臣の資格で謝罪反省した事、日本政府の予算を拠出する事にした点について評価する。
2)だが日本政府が法的責任まで認定して賠償すると出て来なかった事は依然として謝罪の本気さを疑わせる。
併せて少女像撤去問題は政府があれこれ言う問題ではない。
今回の合意を最終的不可逆的なものと規定した事は歴史に対する傲慢であり、越権だ。歴史的な傷は政治的 宣言で一朝に治癒されるものではない。そのような言葉は十分な公論過程を通じて、両国国民がやめたらいいと皆が同意した時に使える言葉だ。
韓日両国政治指導者達が韓日関係を悪化させておいて、政治的日程に追われて急ぎ合意しながら、そのような用語を使ってはならない。
韓日間歴史問題は外交的妥結で終わらせられない事案である事が明らかだ。
3)今回の韓日間外交的合意を土台にして、依然として進行形である歴史問題に対する日本政府の省察が必要であり、政府と民間をひっくるめてより成熟した論議が進展する事を望む。
お分かりだろう。安は今回の合意を「評価」し、少女像問題への口出しなどの問題はあるものの、「今回の韓日間外交的合意を土台にして」「成熟した論議が進展する事を望む」という。つまり、問題はあるけど日本は責任を認めたのだから、この合意を「土台(前提)」にして始めよう、というのである。これは和田春樹やwamなどと同じで典型的な
「愚かな約束」を前提にする論法そのものだ。今回の日韓合意は徹頭徹尾不当・不法なものであり、源泉無効として撤回させなければならないものである。そもそも日韓両政府の間で合意文すら作られず、これを国際法上有効な「条約・協定」としてみなすには瑕疵が多過ぎて、これはせいぜい外相同士のナアナアな「密会・密談」のレベルを決して超えるものではない。それを「土台」にするなど有り得ない話だ。
「どれほど声明で、合意内容を批判していようと、内容を第一歩にするとみなす」
この瞬間に「少女像を撤去し、今後一切慰安婦問題を切り出す事が出来なくなって、日本は完全に免罪、それもたった10億のはした金(それすら日本側は色々と難癖を付けて出し渋っている)で!」を認める事になってしまう。レイプ被害者が力ずくで一方的に泣き寝入り(忍気呑声)させられるというだけの話だ。それを認めているのが韓国のIT成金にして2012年の有力大統領候補であり、現韓国国会議員として「セヌリ党の暴政」に対する歯止めを期待されている「清新な野党政治家」安哲秀であった。
在日の中にも依然として気付いていない人間が多いが、安哲秀の考え方(안철수의 생각)や政策というのは典型的な古臭い「韓国的反共主義」そのものであり、バリバリの右翼である。新興IT長者という御身分のせいで旧態的政治家とは違ったクリーンで進歩的っぽいイメージが安哲秀には付きまとうが、それは大いなる幻想にして美しい誤解に過ぎないという事を強調しておきたい。今回の日韓合意に限った話ではなく、2012年大統領選挙でも安の政策は民主党の文在寅(こいつだってかなりニューライト入った右寄り政治家なのだが)よりも明らかに右寄りだったし、特に対北政策については「北の挑発に対しては断固対応」「NLL(北方限界線)死守」「6.15共同宣言破棄」など、下手をしたら朴槿恵よりも強硬なんじゃないかと思わせる部分がいくつもあった。安は今、新党結成の為に色々な他党議員や人材を引き入れている最中だが、その中には様々な不正に関わった疑惑のある元検事や「李承晩は韓国の国父」と主張する人間がいたり(もちろん安哲秀もこれまで度々李承晩と朴正熙の墓に平然と参拝している)どうしようもない。安哲秀自身も最近は「自分の新党は民主とセヌリの中間のポジション」「民主党は学生運動出身者の巣窟」みたいな発言を周囲に言いふらしているという。韓国の民主党は今でも十分保守政党だが、それよりも右だって? おまえどんだけ極右なんだよ。「民主党は学生運動出身者の巣窟」だって? 日本でもネット右翼が「ミンスは反日左翼」などとよく言うが、それと何が違うのか。
結論を述べたい。安哲秀という政治家は庶民派ですらなく、進歩派などではなおさらない。この男とその一派を日本に例えるなら、橋下徹と維新の会にそのまま該当する。与党と第1野党の脱党組を寄せ集めて、現与党と同じかそれ以上のウルトラ右翼野党を結成して「第3極」に躍り出ようとしているのだから。少なくとも安哲秀が慰安婦問題で日本との「和解」を支持しているという、「親日派」にして日本の植民地支配責任をうやむやにしたがっている「被害者に泣き寝入りを押し付ける強姦加害者目線」という点は常識として弁えていただきたいと思う。安と橋下の違いは元の職業(企業経営者:弁護士)と、前者は後者ほど露悪趣味な暴言を公然とは言わないという点くらいだ。
今年は韓国で総選挙があり、現状のまま行けば与党セヌリ党の超圧勝は間違いないと見られている。朴槿恵政権の暴政があれだけ酷くてみんな食っていけないと言っている状況でこれだ。韓国もまた日本と同じで、時の政権がどれだけ酷くても「民主的」に選挙で圧制者に権力を与えるような「民度」であり、同時に政権を交代させる事が極めて困難な選挙制度(小選挙区制、人口に比して議員数が少ないなど)の国である。「韓国と日本は北朝鮮など比較にならない民主主義国家」などとエラソーに言ってる奴のツラが見たい。それはともかく、今年の韓国総選挙で仮にセヌリが単独過半数取れないという番狂わせが起こった場合はどうなるか。もちろん民主党も単独過半数が取れなかった場合は「第3極」がキャスティングボードを握る事になる。正義党は次の選挙で大惨敗して消滅する事が誰の目にも明らかなので除外するとして、そうなると安哲秀派が「第3極」になる可能性が高い。その場合、安派はセヌリ党と合党するか連立して政権に入るのではないか。「民主党が左過ぎて嫌だ」という日本のネット右翼並みの安哲秀がまた民主党と組むとは考え難い。自分を次期大統領選挙の候補にするなどの条件で安哲秀がセヌリ党とくっつく、つまり安派が「韓国の公明党」になるという未来も、選挙の結果次第では十分にあり得ると思う。
仮に韓国で将来「安哲秀政権」なるものが出来た場合はどうなるか。少なくとも慰安婦問題などの日帝植民地支配責任や歴史問題について言えば、今の朴槿恵政権の路線をそのまま継承するだろう。下手したらもっと酷くなる可能性すらある。
安の側近だったという弁護士が熱烈な朴裕河の擁護者だという話は前にしたし、安本人も先の日韓合意を支持している。この男が韓国大統領になろうものなら、日本との「愚かな約束」ばかり重視・優先して、少女像の撤去や挺隊協のような支援団体への弾圧といった策動を強めるだろう。日本の政治家達は今後も平気で「慰安婦は自発的売春婦」「強制連行はなかった」といった類の暴言を平気で言い続けるだろうが、安哲秀はそれに対しては「何も見ざる・言わざる・聞かざる・感じざる・行動せざる・考えざる」を決め込み、一方で日帝の代わりに韓国の政権が自国内日帝被害者を弾圧してやるという「日帝被害者を弾圧せり」で「六猿一芹」をやるに違いない。
今にして思うと、2012年大統領選挙の有力3候補である朴槿恵・文在寅・安哲秀のいずれが当選していても、今日のような「日韓和解・合意」をしていたとしか思えない。
朴槿恵については言うまでもなく、今日の日韓合意を結んだ当事者だ。この合意の内容は朴裕河の主張をほぼ現実に再現したようなものと言って良い。
知らない人は驚くかもしれないが、文在寅は2012年の選挙で朴裕河から支持されていた。そればかりか文自身が所属する政治派閥、いわゆる「親盧武鉉派(親盧派)」の中には朴裕河を事ある毎に支持してきた政治家や学者だらけで、「和解のために」を2006年に韓国の優秀図書に選定して売り出してやった(日本で大仏次郎賞を取ったのより早い)のも実は盧武鉉政権であり、親盧派と朴裕河は極めて親密な持ちつ持たれつの癒着関係を維持してきた間柄だったのである。この事も日本では意外に知られていない。この事実を見ただけでも盧武鉉政権が「反日」などというのはあり得ない。盧武鉉は独島問題や歴史問題で一見強硬ポーズを執る反面、裏では日本と手を結んで朴裕河的な妥協をする事も考えていた「二枚舌外交」に過ぎなかったというのが本当であろう。今の文在寅と民主党は日韓合意を「不当だ。撤廃すべし」と主張してはいるものの、これは第1野党という立場上言っているだけで、どこまで本気かは分からない。文在寅ら親盧派と朴裕河の関係を考えれば「おまえが大統領になってたら同じ事をしなかった、という保障はあるのか?」と疑いたくもなる。民主党の「撤廃せよ」という態度については一応正しい反応だが、それをどこまで貫けるかは厳しく見る必要があろう。
安哲秀についてはすでに述べた通りだ。
このように2012年の有力大統領候補である朴・文・安のいずれも朴裕河の主張する「日韓和解論」と極めて親和性が高く、いずれが当選していても今日と同じ合意をしたというのは決して杞憂ではないのである。
安哲秀とその一派は「韓国の橋下&維新」だという事実を十分に認識していただきたい。本国の情勢にある程度関心があったり、投票を考えている韓国籍の在日同胞ならばなおさらである。
(続く)
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