韓国の朴槿恵政権が歴史教科書を国定化するといって、向こうでは大変な反対運動が起こっている。これは簡単に言って日帝植民地時代や軍事独裁時代を美化する教科書に一本化しようという話であり、韓国という国はとうとうここまで来たのかと呆れるばかりだ。もっとも朴槿恵にせよ次期大統領有力候補と言われるセヌリ党代表の金武星にせよ、親日派の子であるという出自を考えれば当然の展開でもあったろう。
韓国で近年出た親日・独裁美化教科書は通称「ニューライト教科書」と呼ばれ、日本のつくる会教科書を丸写ししたのではないかとよく揶揄される。それほどまでに両者は酷似した部分が多い。それぞれの教科書が事実上の相手国言語版になっているのではないかと思えるほどだ。
韓国のニューライト勢力というのはこのように「日帝植民地統治のおかげで韓国は近代化した」「李承晩は韓国の国父」「朴正熙のおかげで韓国は経済発展した」という植民地統治・独裁礼賛と「骨の髄まで親米親日反共反北」という理念に凝り固まっており、そうでない「アカ・従北」は人間じゃないと平気でうそぶく。その総本山としてニューライト全国連合というのがあり、これが李明博と朴槿恵(この両人はよく「ニューライト大統領」と呼ばれる)を下支えしてきた。早い話が「韓国版日本会議」である。自民党と安倍晋三のバックに日本会議があれば、セヌリ党と朴槿恵のバックにニューライト全国連合あり。日韓いずれにも全国的に巨大な極右組織があり、保守政権の影の支え役になってきた歴史がある。
こうした韓国ニューライト勢力の中にはとりわけ
笹川系の日本財団関係から金をもらっている連中が何人もおり、日韓の癒着・共犯関係が現在においてもいかに根深いものであるかを我々に教えてくれる。これまで嫌になるほど述べてきたように、日韓は互いに大の仲良し国家であり、この日本が兄で韓国を弟(もちろんアメリカがオヤジ)とする「日韓協定体制」は1965年から今に至るまで基本的な部分では何も変わってはいない。「今の日韓関係は最悪。だから仲良くしようぜ」などという安田浩一的な言説はこうした歴史と国際情勢を全く無視した世紀の大ペテンである。こうした歴史教科書をめぐる日韓極右政権・勢力の動きを見れば一目瞭然ではないか。
ただし、韓国で起こっている歴史教科書国定化反対運動もちょっとどうなのよ、と思う部分が多い。と言うのも、今起こっている国定化反対の論理を見ていて必ず出て来るのが「このままでは北みたいになる」「経済発展と民主化を同時に成し遂げた偉大な韓国の歴史が教えられなくなる」という事を必ずと言って良いほど主張しているからだ。以下のオーマイニュースやハンギョレの記事にそれがよく表れている。韓国の進歩派勢力とは何と論理薄弱な集団である事か!
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0002151654
「北韓式唯一史観とは」蔚山で国定化反対運動
新政治(民主党)蔚山市党の反対世論戦、高校歴史教師達1人デモ(朝鮮語記事)
特に彼らは「子供達が学ぶ歴史教科書を、政権の口に合う唯一史観を注入する為に北韓式唯一教科書にしてはならない」とし「丹齋・申采浩先生が朝鮮上古史で『歴史を忘れた民族に未来はない』と強調したように、親日と独裁は正しい歴史たりえない。憲法に明示された大韓民国の法統は抗日闘争と自主独立」だと指摘した。
なぜこういう重大な場面でさえ北の事をこき下ろす「従北狩り」をしなければ反対出来ないのか? 国定化が嫌なら「維新時代に逆行する」「植民地時代の皇民化教育に逆行する」とでも言えば済む話ではないか。親日・独裁賛美教科書を批判するのに同胞である朝鮮民主主義人民共和国をわざわざ卑下するという全くの筋違いな行為をして平気なこの者達は、反北感情において朴槿恵政権と何ら違いはない。この者達は
どこぞのネオコン転向左翼のポンチ絵描き並みに低劣な水準である。それどころか朴槿恵が今後作るであろう維新時代回帰の国定教科書は間違いなく現行教科書よりもはるかに朝鮮共和国の事を悪く書くだろう。親父の維新時代の反共教育では「北に住んでるのは人間ではなく、角を生やした鬼」と真面目に教えていたのは有名な話ではないか。「国定化したら北みたいになる」と真面目に主張している北嫌いな連中がなぜそれに反対するのか、筆者には全く理解出来ない。「北は人権のかけらもない地獄みたいな独裁国家」と言って嫌っているなら、教科書の記述が維新時代のように戻っても何の不都合もないであろうに!
「その通りだよ。国定教科書では君達も大嫌いな北の事をもっと悪く書こうというんだ。君達(ハンギョレ、京郷新聞、民主党、正義党などの進歩派)だって『北は世界でも最悪の人権抑圧国』って事ある毎に言ってたじゃないか。それの何が気に入らないんだね?」
朴槿恵政権からこのように言われたら連中はぐうの音も出ないだろう。
上記よりもさらに最悪の例は延世大学の学生達が作ったという大字報だろう。またしてもオーマイニュースがこんなものを好意的に大きく取り上げている。
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0002152532&PAGE_CD=ET001&BLCK_NO=1&CMPT_CD=T0016
「歴史教科書国定化、朴槿恵最高指導者の慧眼」?
大学街の奇抜な「国定教科書反対」大字報話題、寸鉄人を刺す内容を見てみると(朝鮮語記事)
15.10.19 13:48 最終アップデート 15.10.19 18:30
この記事の内容をかいつまんで説明すると、延世大学(石丸次郎の母校である!)の学生達が朴槿恵を北の金正恩になぞらえて国定化をからかったポスターを張り出したというもので、その文面も朝鮮共和国のマスコミで最高指導者を称える際の口調や文体そっくりにしたというものだ。はっきり言ってこれは前述のネオコン転向左翼のポンチ絵描きか
シャルリエブド並みに酷い差別・蔑視感情丸出しの内容で、これを作った者は朴槿恵政権よりも北の事をはるかに嫌い、憎悪しているとしか思えない。これは率直に言って風刺にも皮肉にも全くなっておらず、反北感情を煽り立てるだけのものである。こういう代物を張り出す事で国定教科書に反対するどころか、むしろ人々の北に対する蔑視・対立感情を増大させて結果的にニューライトを利するだけという事も分からないのか。そんなに北が嫌いならどうして国定教科書に反対する必要があろう。歴史教科書が国定化でニューライト教科書に一本化されれば、この大字報と同レベルな北への憎悪と対立を煽るカリキュラムが激増するのは間違いないのだから。
親日教科書に対する当てこすりをするなら、朴槿恵を昭和天皇なり神功皇后なり豊臣秀吉なり李完用なりになぞらえるネタをやるのが正しい。それをせずにわざわざ朝鮮共和国や金正恩になぞらえるというのは、この作者がどれだけ歴史に無知であり、今の韓国に蔓延する反北感情に媚びて迎合する事しか頭にないかを表している。案の定、この大字報は他の進歩派メディアでも大絶賛して持ち上げ始めた。
ハンギョレ、
プレシアン、
京郷新聞…。
ハンギョレの記事によればこの大字報の作者ははっきりと「私は国定化に反対します。なぜなら北について行く事だからです」言っており、北に対する嫌悪感を隠しもしない。こういう人間が教科書国定化反対のヒーロー扱いされているのである。これでは南北対立を煽る朴槿恵らニューライト勢力と何ら違う所がない。こういう露骨な反北記事ならば、ハンギョレ日本版がまたしても喜んで翻訳して何日もサイトのトップに乗せ続けるのではないか。2015年10月19日21時現在、ハンギョレ韓国本家ではこの大字報紹介記事をトップに掲載しており、もはや朴槿恵を攻撃したいのか北を攻撃したいのか分からない状況だ。
このように「親日・独裁美化教科書」に反対してるはずの勢力までもがそれを「反北扇動・従北狩り」に仕向けようしているのが、今の「韓国民主主義」の現住所である。これで本当に「親日・独裁美化教科書」や「日本の歴史修正主義」に対抗出来るのか。南北の対立が深まるほど日本は喜び、得をする。日本の歴史修正主義者や軍国主義者を批判する資格を自ら投げ捨てているのが、こうした韓国の低劣な運動姿勢に他ならない。
続いては真打登場、我らがハンギョレ新聞ですッッッッ!
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/22257.html
[ニュース分析]教科書が自虐史観? 敗者として登場するのは日本帝国主義と独裁
登録 : 2015.10.19 03:39 修正 : 2015.10.19 06:57
特に専門家たちは、韓国現代史を民主化と産業化の観点から記述することは、世界のどの国とも比較できない「肯定的な歴史記述」だと強調する。キム・ハンジョン韓国教員大学歴史教育科教授は「韓国は経済成長だけでなく、第2次世界大戦に巻き込まれた国としては珍しく民主化にも進展が見られた。これを浮き彫りにするのは自虐史観ではなく、肯定的な史観」だと述べた。政治・経済成長と民主化を同時に成し遂げた点を強調するのは、韓国を肯定的に記述する“クライマックス”という指摘だ。
(中略)
歴史教育の目標は、過去を反省し、現在と未来に二度と不幸な歴史が繰り返されないようにすることだ。専門家たちは、過去の過ちに対する反省のない歴史教育は、歴史というよりは「国家広報」と看做すべきだとして懸念を示している。ソウル大学国際大学院のパク・テギュン教授は「韓国近現代史研究の一般的な前提は、『植民地を克服し、分断という困難な状況の中でも、経済成長と民主化を成し遂げた歴史』という点だ。その前提の上で「私たちが継続的に、このような成果を繋いていくためには、過去にあったどのような問題を解決できるのか」という観点から歴史を記述しなければならない。それを自虐史観だとするなら、歴史学としての任務を放棄したも当然だ」と指摘した。
現行の教科書の歴史記述を肯定的に捉えるのか否定的に捉えるのかは、“大韓民国の主体”を誰に求めるのかという問題とも関連している。大韓民国の主体を統治者と支配層とするなら、親日と独裁について記述するのは、韓国の歴史を否定的に教えることになる。しかし、大韓民国の主体を国民であり、市民とするなら、私たちの歴史は親日と独裁を独立運動と民主化運動を通じて克服した“勝利の歴史”となる。
はい、例によってまた出て来ましたよ。韓国は「
経済成長と民主化を成し遂げた」という自画自賛が。その経済発展の中身(ベトナム特需、過酷な労働環境、とてつもない環境破壊、第三世界への経済侵略など)はそんなに御立派なものだったのか、本当に韓国の民主主義の程度(まだ国家保安法が現存し、それによって左派政党が政権の意のままに強制解散させられる国である!)は素晴らしいものなのかが問われているのだ。それをすっ飛ばして事もあろうに「勝利の歴史」などとは! これには朴槿恵や金武星らもびっくりだぜ! 朴槿恵や金武星らは親日派にして独裁勢力だった親父達の悪行をなかった事にした自分らの「勝利の歴史」を教科書に入れようとしている訳だが、それに反対する側も韓国の「経済発展」や「民主主義」のお粗末な実態を歪曲した自分らの「勝利の歴史」に拘泥しているのである。どちらも間違った歴史であるのに違いはない。間違った歴史を押し付けようとしている所へ間違った歴史で対抗してどうするというのか? 今韓国で起こっているのは率直に言って「朴正熙バンザイ史観vsエセ民主主義バンザイ史観」でガキの喧嘩をしているのに過ぎないだろう。どちらも有害な歴史観である事に違いはなく、今韓国社会を大いに騒がしている歴史教科書国定化問題の本質が「コップの中の嵐」でしかなくなっていると筆者が断ずるのはこの為だ。
この構図は日本にいる我々にも見覚えがある。安倍政権の安保法制に対して
「戦後70年間日本は平和国家であり続けた」という大嘘を論拠に反対運動していた者達の姿に何とそっくりなのかと思う。今の韓国歴史教科書国定化問題というのは、色々な意味で日本における安保法制と同じ位置付けなのではないか。日韓どちらの政権も安保法と歴史教科書国定化という無法を力で押し通した(通そうとしている)事、それに反対する側の多くも「平和国家」「民主主義」という大嘘の歴史で対抗しようとしている事、これらがいずれも戦後日韓の軍拡化や反共ファシズム体制や安保協力の“クライマックス”とも言うべきものだという事だ。
今の韓国の「民主主義」がいかに不完全であり、誇れるような水準ではない事か。それを十分に認識した上で国定化に反対する者がいくらかでもいれば、例え今日敗れてもいつか再起する事は出来る。だが、今の韓国の民主主義が「勝利の歴史」などと自惚れていては再起の道すらおぼつかない。どうしてここまで自惚れた度し難い自画自賛が出来るのか?
「歴史を忘れた民族に未来はない」とは国定化反対派にもあてはまる。
「
歴史教育の目標は、過去を反省し、現在と未来に二度と不幸な歴史が繰り返されないようにすること」と言うが、国定化に反対している者ほど「民主化以後」と「経済発展」の不幸な歴史をないがしろにしてはいないか。
「大韓民国の法統は抗日闘争と自主独立」と韓国の憲法には明記されているが、それが現実に実践・実現されているとでもいうのか? この事は日本の9条並みに実現されておらず、自慢出来るようなレベルではない。
「大韓民国の主体を国民であり、市民とするなら、私たちの歴史は親日と独裁を独立運動と民主化運動を通じて克服した“勝利の歴史”となる」だって? だとしたら韓国の民衆は現実には決して勝利などしていない。親日派と独裁勢力の跋扈する韓国の現実は何なのか? 「勝利の歴史」とは嘘の歴史である。
今の韓国の歴史教科書国定化反対運動はとんでもない反北主義志向(思考)をはらんでもおり、これが韓国人の南北対立感情を激化させる可能性も否定出来ない。「自分ら南は経済発展した素晴らしい先進国の民主主義国家。北は人が餓死する貧乏な後進国の独裁国家」という歪みきった醜悪な優越感がこのような教科書問題にまで滲み出てくるというのは、自画自賛を通り越して夜郎自大の域にまで達している。
日本の安保法制反対運動の構図は
「大日本帝国バンザイ派vsエセ平和国家バンザイ派」で、どっちも「戦後70年間日本は平和国家だった」「北朝鮮は韓国だけでなく日本の平和も脅かしている」という点で大いに認識が一致。
韓国の歴史教科書国定化反対運動の構図は
「朴正熙バンザイ史観vsエセ民主主義バンザイ史観」で、どっちも「経済発展と民主化を同時に達成した韓国良い国エライ国」「子供達に北のような教育をして良いのか!」という点で大いに認識が一致。
このような姿こそ過去に民主化闘争で犠牲になった人々に対する冒涜であると筆者は考える。果たして韓国の教科書国定化反対運動に賛同して良いものか、躊躇させるに十分ではないか。
日本という「平和国家」は安倍晋三の登場によってある日突然破壊されたのではなく、その実態は戦後70年間もずっと軍事大国化への道を歩み、他国の戦争に関わって利益を得てきた汚い国であった。それと同じように韓国の「民主主義」とやらは朴槿恵の登場によってある日突然破壊されたのではなく、87年の民主化宣言以降も極めて不完全なものであり、絶え間なく逆コースを歩み続けて来たのである。それは「勝利の歴史」などとは程遠い。
韓国の現状は安保法案反対時の日本以上に厳しく絶望的なのではないか。
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