すでに報道されて御存知の方も多かろうが、駐韓米大使のマーク・リッパート(Mark Lippert)が刃物で切り付けられる事件が発生した。容疑者のキム・ギジョン(김기종)という人物は平和統一運動や独島守護運動をしてきた市民運動団体代表である。
この事件についてすでにネット上のコメントや感想など見ていると「右にも左にも狂った奴はいる」「いかなる理由があろうともテロは正当化出来ない」「(リッパートが韓国文化好きな「親韓派」である事から)狙う相手を間違えたな」などといった批難調のものが多い。だが、この事件はそのように簡単に容疑者を狂人扱いしたり、単純にテロ行為自体の否定だけで終わる問題なのか? 今の韓米日関係という国際環境の中で、被害者のマーク・リッパートという人物がいかなる性質の駐韓米大使なのか、加害者であるキム・ギジョンという人物がいかなる性質の人物かを検証し、なぜ今回のような事件に至ったのかを深く考える必要がある。
まず、リッパート大使という人物については「知日派」であると同時に大変な「親韓派」であるともされている。例えば息子のミドルネームに韓国風の名を付け、あまり上手ではないが朝鮮語が少し出来るのでそれによるインタビューをブログに公開し、尊敬する人物は朝鮮王朝の世宗大王、焼肉やピビムパブ・キムチなども好物だという。
http://news.donga.com/3/02/20150305/69956127/1
「42歳最年少」駐韓米大使マーク・リッパートとは何者か(韓国語記事)
これだけ聞くと、「なぜこんなに韓国の文化を愛好する「知韓派」の大使を襲ったのか。平和統一運動家がそんな事するとか、この容疑者はおかしいんじゃないのか」と思えるかもしれない。では「息子に韓国風のミドルネームを付け、世宗大王を尊敬し、韓国料理が好物」な我らがリッパート大使の外交官としての仕事や政治的方向性はどうだったのだろう。以下にそれらを列挙するので、詳しくは元のリンク先記事も併せて御覧いただきたい。
http://japan.hani.co.kr/arti/international/17617.html
マーク・リッパート駐韓米国大使指名者「北制裁・孤立化持続」
駐韓米大使指名者‘対北朝鮮観’強硬
マーク・リッパート(写真)駐韓米国大使指名者が17日、北朝鮮の核問題と関連して北朝鮮政権に対する孤立化と制裁を持続して、米国および同盟国のミサイル防御(MD)を拡充しなければならないと明らかにした。
リッパート指名者はこの日、米上院外交委員会承認聴聞会に出席した席で‘北朝鮮リスクにどのように対処するか’という質問にこのように答えた。 これはリッパート指名者が非常に強硬な対北朝鮮観を持っていて、ミサイル防御(MD)の拡充と関連しても韓国に対する圧迫を強化するだろうことを示している。
彼は北核脅威に対する三つの対応基調を提示した。 彼は「第一に、北朝鮮と北朝鮮政権を孤立させるための国際的コンセンサスを作ること」とし「最も良い例が人権問題で彼らを孤立させること」と話した。 彼はまた「多者的・独自制裁と圧迫を持続して、軍事訓練も継続し、米国が北朝鮮の行動に注目しているという強力な信号を送らなければならない」と話した。 彼は「最後に、強力な国防と抑止が必要だ」として「ミサイル防御を強化するためにアラスカの迎撃ミサイル数を増やす一方、日本に2基目のTP2レーダーを設置し、弾道ミサイル巡洋艦2隻を2017年までに配置し、グアムに高々度ミサイル防御体系(THAAD)を移動し北朝鮮の威嚇より一歩先んじなければならない」と話した。
http://www.shibano-jijiken.com/sekai_o_miru_sekai_no_shinbun_437.html
<韓・米・日(軍事)三角同盟>の設計者が、駐韓米国大使となった
-オバマが、マーク・リッパートを駐韓米国大使に指名した理由-
チョン・ウンシク 平和ネットワーク代表(「チョン・ウンシク」ではなく正しくは「チョン・ウッシク又はウッシッ 정욱식 鄭旭湜」である:引用者注)
リッパートは、オバマ行政府が強力に推進している韓米日・三角同盟の設計者の中の一人だ。今年、満41歳であるリッパートは、米上院軍事委員会専門委員とポラク・オバマ大統領が上院議員が在職時期、外交補佐官を経て、オバマ行政府出帆以後には、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)秘書室長、国防部・東アジア太平洋担当次官補、チャック・ヘイグル国防長官秘書室長を務めた人物だ。この様な履歴からも知る事が出来るように、彼はオバマ行政府の核心的な‘軍事戦略通’、として通っている。
リッパートは、4月中旬、ワシントンで開かれた《韓・米・日三者安保討議(DTT)》の米国側首席代表を担当した。次官補級会議であるこの会議の、米国側首席代表は、国防部・東アジア太平洋担当次官補がずっと担当した。ところでリッパートは、国防長官秘書室長の資格で、この会議を直接取りまとめた。そうしては、「この会議が、極めて生産的で実質的だった」と自己評価しながら、韓米日軍事協力を強化すると言う意思を強力に表明している。
…
この会議(4月中旬の上記DTT)の首席代表を務めたマーク・リッパートは、4月30日、或る討論会でこの様に語った。“3国は、今年始め、韓・日関係の緊張にも拘らず、高位級会談と首脳会談を開催した事を土台に、協力関係をさらに強化して行かなければならない。(5月30~6月1日シンガポールで開かれた)シャングリラ対話を契機に、3国の国防長官が再び一緒に集まり、協力関係を正常化しなければならない。”
…
マーク・リッパートは、また、“米国国防部は、安倍晋三総理の安保政策に大変満足している”とし、“(安倍が)もう少し、しなければならない事があるとすれば、韓・米・日3者協力を強化する事”だと強調した。それとともに、“DTT(3者国防討議)のような3者協力を、強化する事が出来る事をするのを願う”と言った。
この様な内容を総合してみる時、マーク・リッパート・駐韓米国大使内定者の核心任務は、韓?米―日三角同盟の構築にあると言う事が出来る。
北韓との実質的な対話と協議は忌避しながら、“北韓の脅威”を根拠に、韓・米・日三角同盟強化を推進すると言うオバマの立場が、マーク・リッパート駐韓米国大使内定者を通して重ねて確認されるようで、まことに憂慮し、苦々しいかぎりだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/37149?page=2
日韓関係改善に向けて米国が強力な布陣 駐韓米大使に大統領側近のリッパート氏を指名
しかし、それは誤解だ。リッパート氏は大統領と個人的な関係が深く、国家安全保障会議(NSC)や国防総省の内情に精通している。今後の東アジアをめぐる米国の外交政策に影響力を与える存在であり続ける人物だ。
…
在外米大使が政府の外交政策に影響力を行使するのは異例だが、リッパート氏にはその異例な役割が期待されている。オバマ大統領は韓国の朴槿恵大統領と良好な関係にある。彼の親友を駐韓米大使に任命することによって両首脳関係をさらに強化し、同時に日本に対しては、慰安婦問題などの解決に努力するよう圧力をかけるシグナルにもなる。(ここでアメリカの言う「慰安婦問題などの解決」とは「韓日は適当に手打ちして、歴史問題よりも安保協力を優先させろ」の意:引用者注)
米政府はこれまで日韓関係の緊張に神経をとがらせてきた。その緊張は北東アジア地域の安全保障に有害であり、北朝鮮に対抗するための米日韓3カ国の協力関係を損なうからだ。いずれにしろ、リッパート氏が北朝鮮問題への対応や日韓関係改善に向けたキーパーソンになることは間違いない。
私マーク・リッパートは韓国大好きです! 息子の名前にも韓国風のミドルネームを付けました! 韓国語も勉強してちょっとは話せるようになりました! 世宗大王を尊敬しています! 韓国料理も大好きです! でも北朝鮮は制裁と孤立化によって滅ぼさねばなりません! 韓米日仲良くしようぜ! 韓米日足並みそろえて、人権問題で北朝鮮を圧迫しようぜ! 韓米日軍事同盟で北朝鮮に人道的軍事介入しようぜ!
…何というか、絵に描いたような対朝強硬派・韓米日軍事同盟論者そのもの。日本にもこういう奴いっぱいいるよね。韓流ドラマ・K-POP大好きです! でも反日韓国大嫌い! 「在日特権」撤廃! などという「政芸分離」韓流ミーハーは在特会の会員の中にすらいるし、それに対抗している(実態は八百長プロレスまがい)らしいしばき隊・反原連系集団については言うまでもない。この駐韓大使もおんなじという事だ。この男は確かに個人的に韓国文化を愛好しているのかもしれないが、その朝鮮半島で分断体制や米軍の蛮行によって苦しむ民衆の姿なぞアウトオブ眼中、植民地総督気取りの鼻持ちならない存在でしかない。
では一方の加害者側である容疑者のキム・ギジョン氏とはいかなる人物であったのか? 「我々の広場 우리 마당」という平和統一運動や独島守護運動をやってきた団体の代表であり、進歩的民族主義傾向の活動家であった。事件を受けて韓国のマスコミにはキム氏に対する来歴などが大量に報じられているが、その大半は「奇行が多い変人」呼ばわりするものが非常に多い。だがこの人を単なる「狂人」扱いする事は許されないだろう。同情すべき点が非常に多いからだ。1988年にキム・ギジョン氏の「我々の広場」事務所が4人の暴漢に襲撃され、そこにいた女性一人はレイプまでされた。当時野党だった金大中の平和民主党はこの事件を情報機関による政治テロだと暴露した事があるが、今でも真相は明らかになっていない。そればかりか、この事件は盧武鉉政権の「真実と和解の為の過去事整理委員会」ですら取り上げてもらえず、キム・ギジョン氏はこれに抗議して2007年に大統領官邸前で焼身自殺(未遂)までしている。軍事政権の頃に、弁護士だった盧武鉉はキム・ギジョン氏の集会に呼ばれて法律の講演をした事もある関係だったのに、だ。氏が奇行の多い人間であったとしても、こうした苦衷をなめ続けた結果であったとしたらそれは同情されるべきではないか。氏の主張も、現在行われている韓米軍時訓練の反対や日本軍拡化批判、韓国の戦時作戦権返還、独島が韓国領であるなどそれ自体は全て正論であり、主張の正しさ自体は耳を傾けるに値する。
こうした人物を「狂人」「テロリスト」と切り捨て、ゴリゴリのタカ派にして韓米日軍事同盟論者であるリッパートを「焼肉好きの親韓派」だからともてはやす姿。これは歴史を何も知らない馬鹿な韓国のミーハーな若者が「日韓仲良くしようぜ」の桜井信栄をもてはやす姿に何とそっくりなのかと思う。実際にリッパートはその手の頭の足りない韓国の若者には大変人気があったようで、まさにこの男は「アメリカの桜井信栄」であった。いや、リッパートという男は桜井ごときよりはるかに上手だ。切れ者外交官として30代40代で高位職に出世し、オバマの信任も特別に厚いこの男は、「韓米日仲良く軍事同盟で北朝鮮滅ぼそうぜ」という恐ろしい本性を持ちながら、「息子に韓国風のミドルネームを付け、世宗大王を尊敬し、韓国料理が大好きでーす。まだ下手だけど、韓国語のインタビュー記事を自分のブログで公開してまーす! 二人目の子供も韓国で生めたらいいなー」といういかにもソフトな語り口で韓国の頭の足りないいわゆる「B層」をオルグして取り込む。目的のためにはそんな芸当をも平然と駆使する手段の選ばなさに恐ろしさがある。すでにリッパートは病院での治療後に自身のツイッターで健在ぶりを告知し、「韓米同盟の進展の為に最も早い期日内に戻ってくるだろう。一緒に行きましょう!(같이 갑시다)」などとほざいている。この「韓米同盟の進展、一緒に行きましょう」というのは、植民地時代に嫌になるほど聞かされたスローガンと同じだ。すなわち日本帝国主義が植民地朝鮮に押し付けた「内鮮一体」である!
駐韓米国大使マーク・リッパート曰く
「韓米日仲良く軍事同盟で北朝鮮滅ぼそうぜッッッッ! 米韓一体ッッッッ!」
早速韓国ではリッパートの「親韓」ぶりにイカれたその手の馬鹿どもがキム・ギジョン氏の事を「こんなに韓国を愛して下さったリッパート大使閣下様を襲うなんて! 国益を損ねた!」とばかりにバッシングし始めている。韓国という国の国民達は自国民や同胞が悲惨な境遇に陥ったりテロに遭っても無関心なくせに、アメリカ大使や日本人が被害に遭うと激怒するらしい。これを我々は古くからこう言い表してきたではないか。「奴隷根性 노예근성 どれいこんじょう servile spirit」と。
韓国のマスコミでは今後、朝中東のような保守マスコミはもちろん、ハンギョレやプレシアンのような進歩派マスコミまで一体となって、キム・ギジョン氏を「狂人」「頭のおかしな民族主義者」「国益を損ねた」の大合唱でバッシングし、反面リッパート大使を「テロに屈しない勇敢な英雄にして、北から韓国を守ってくれる韓米同盟の騎手」呼ばわりする報道を垂れ流すだろう。いや、もう始まっている。リッパートがゴリゴリの韓米日軍事同盟論者のタカ派であり、南北関係悪化で戦争の危機を高めてアメリカの国益を追求する危険人物だという本性を完全に黙殺・封印して…。
キム・ギジョン氏の行動、韓米合同軍事演習に反対する立場の者としてリッパート大使という最も強硬な韓米日軍事同盟論者を狙ったのは、標的として全く間違っていない。我々が知っておかなければならないのは、リッパートという駐韓大使の恐ろしい本性と、それを「息子に韓国風のミドルネームを付け、世宗大王を尊敬し、韓国料理が大好きでーす。まだ下手だけど、韓国語のインタビュー記事を自分のブログで公開してまーす! 二人目の子供も韓国で生めたらいいなー」といういかにも親しみやすそうな擬態で欺く役者ぶり、それにあっさり騙される多くの韓国人の愚劣さである。その事は何度警告しても足りないであろう。
いかなる理由があろうともテロは許されないだって? あんなに韓国に理解のある大使を攻撃して国益を損ねただって? 暴力に屈するなだって?
そのような事を言う者は一生奴隷で生きるしかない。このような愚劣な言い草こそ安重根や尹奉吉をはじめとする独立運動・武装闘争を否定するものであり、世界中で無数に起こってきた反帝国主義・植民地解放運動を否定するものだ。今の世の中で「テロは許されない」などとしたり顔で言う者が激増した理由を知っているか? それは明治以降の日本国家が近代天皇制を維持してきた手段とおんなじだ。暴力! これにつきる。天皇と天皇制に文句を言う者は問答無用の暴力的弾圧に晒される。アメリカの「対テロ戦争」に異を唱える者も同じ事。「アメリカの軍事力」という世界最強の暴力によって叩き潰されてきた。しかしながらこれは、日本国家が天皇制維持の為に振るう暴力など比較にならぬほど強大な暴力だ。イラクでもリビアでもそうした存在は国家丸ごとアメリカの暴力で現実に滅ぼされ、そうでない国々もそれに平伏する中で一般の人々も染まっていったに過ぎない。軽々しく「テロは許されない。暴力に屈するな」と言う者ほど、実はアメリカの桁違いな「対テロ戦争」の暴力的示威に屈しているのである。
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