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朝鮮労働党第7次党大会について~本筋から外れたちょっと気になるトピック

36年ぶりに開かれた朝鮮労働党の党大会が先日閉会した。金正恩が執権して何年も経つのだから、新リーダーとしてなるべく早くに党大会はやらねばならない状況にあったのは当然であろう。朝日新聞やアジアプレス(笑)などの日本マスコミは相も変わらず「党大会やっても北朝鮮は何も変わらない」と馬鹿の一つ覚えしか言わなかったのも予想通りではあった。「何も変わらない」のはアジアプレスら日本の報道機関の方だ。石丸次郎のように「北朝鮮報道の第一人者」を自称(詐称)しながら肝心の党大会そのものについてまともな分析記事一つ書けず、ツイッター上で「向こうの人間と電話して聞いたらみんな『党大会なんか俺らとは関係ない』と言っていた」みたいな、何の中身もない戯言を愚痴ってるだけでメシが食える者どもは実にお気楽なものである。仮にも「専門家」を名乗りたければもう少し真面目に仕事しろ!

簡単に言うと今回の党大会は経済発展により重きを置いた布陣を敷いたと言えるが、参考になる記事などは今後おいおい紹介していきたいと思う。が、今回は政治的なそれとは全く違う側面でちょっと気になる部分があったので述べておきたい。

新しい党中央委員会のメンバーを見てみると、党中央委員会政治局候補委員の中に「ノ・グァンチョル 노광철」という人物が新たに選出されていた。この人は人民武力部第一副部長(国防次官)の軍人で、今回新たに世代交代組として入って来た一人と言われる。が、筆者がこの人物について気になったのは、その名前であった。「ノ・グァンチョル 노광철」? 朝鮮人に「ノ 노」という姓があったのか、と。こう言っても朝鮮人・韓国人以外には中々理解されないかもしれないが、一般的に韓国や日本で知られている「ノ 노」という姓氏はどれも本来は「ロ 로」と発音・表記されるべきものだからだ。有名な所では元大統領である「ノ・テウ 盧泰愚」や「ノ・ムヒョン 盧武鉉」があろう。朝鮮語ではRやNの発音が語頭に来た場合は子音が抜け落ちたり変化するという、いわゆる「頭音法則」という現象があり、フランス語で歳月と共に発音しにくいHの音がなくなったのと似ている。ただしフランスでは発音はしなくなっても表記上はHを残して本来の発音が何であったかを伝えるのを固守しているのに対し、韓国では表記上もRやNに該当する子音(ㄹㄴ)を省いたり変えてしまっているので、同音異義語が無闇に増えて非常にケジメのない正書法になってしまったと言えよう。反面、朝鮮共和国では表記・発音共に古来からのRやNに該当する子音をちゃんと残している(実際にしゃべる際は訛る事も多いが、表記上はちゃんと古来の発音を固守している)。例えば朝鮮共和国の内閣副総理で今回新しく党中央委員会政治局委員に入った盧斗哲は「ロ・ドゥチョル 로두철」であり、その姓を「ノ 노」とは(少なくとも北では)書かない。

南の国勢調査などのデータを見ると、朝鮮民族の姓で本来は「ロ 로」だが南の正書法では「ノ 노」に変化するものとしては「盧」「魯」「路」の三つがある。この内「盧」は比較的よく見かけるが、「魯」「路」は少ない。実際に筆者が見た事のある南や在日の同胞で「ロ 로」「ノ 노」という姓を名乗る者はみんなこれら三つのうちどれかだった。また、元から「ノ 노」と発音する漢字の姓というのはその手のデータにはなく、筆者もこれまで実際に見た事がない。なので「ロ 로」ならざる元から「ノ 노」という姓氏は、少なくとも朝鮮民族には存在しないものとばかり思っていたのだ。
ところがここに来て「ロ 로」ではなく、元より「ノ 노」という姓の人物が登場したのである。これは朝鮮民族の姓氏研究において、実は文化人類学的に大きな発見なのではあるまいか。気になって筆者は朝鮮労働党の公式発表文などで「ノ・グァンチョル 노광철」という人名を調べてみた所、この人の名前の漢字表記は「努光鉄」である事が分かった。努力の「努」氏である。努という字は朝鮮語で元より「ノ 노」と読むが、朝鮮人・韓国人でこんな姓氏は初めて見た。少なくとも南や在日社会では一度も見た事がない。もちろん単純な誤字という可能性も否定は出来ない(可能性は低いが)。しかしそうでなければ、この何気ない発音の姓が実は大変貴重な発見という事になろう。


↑新しい朝鮮労働党中央委員会政治局の常務委員・委員・候補委員メンバー(労働新聞公式サイトより)。最下段右から二人目が努光鉄(ノ・グァンチョル 노광철)。クリックで拡大。

朝鮮民族の姓氏についてはこれまで旧王朝時代から研究や調査が行われて来た。例えば朝鮮王朝実録に収録されている「世宗実録地理志」(1454年 端宗2年)が朝鮮民族の姓氏研究では最も基本的な古い資料とされている。その後の代表的な例としては植民地時代の1930年に調査があり、解放後の南北分断体制では南で1960年以降国勢調査で実施され始めた。南での調査ではおおむね258-272種類の姓氏がある(後年になって数が増えたのは外国人の帰化姓が増えた為)事が判明しており、現在日本でも入手や閲覧の可能な朝鮮の姓氏に関する書籍類はこうした調査を元にしたものである。ただしこれらは飽くまで韓国すなわち南での調査結果に基づいたデータであり、どこまで行っても朝鮮半島の半分の地域を調べたに過ぎないという限界がつきまとう。朝鮮共和国すなわち北ではこうした姓氏に関する統計が公表されてこなかったからだ。北側でこうした調査が行われなかった訳ではなく、戸籍調査からのそうした統計は当然行われていたはずだが、そうしたデータは朝鮮共和国の政治体制上では国家機密にならざるを得ないので公開されてこなかったのであろう。したがって南には現存せずに途絶えた姓氏や、北の特定地域や集落に限定的な珍しい姓氏を受け継いでいる人々が今でも北にはいるのではないか、という事が研究者の間ではずっと言われてきた訳で、図らずも今回の朝鮮労働党第7次党大会はそれを証明する事になったのではないだろうか。「ノ・グァンチョル 노광철 努光鉄」という聞き覚えのない、それこそ「世宗実録地理志」にすら載っていなかった「努氏」を名乗る人物が朝鮮労働党の高官として現れた事で。

もちろんこの件についてはもっと深い調査研究が必要である。この「努氏」を初めて名乗った人物は誰なのかという先祖の来歴や、朝鮮人の姓氏につきものである「本貫(宗族)」は何なのか、族譜(家系図)は現存するのか、(可能性は低いが)実は最近改姓して新しく創始した姓なのかといった詳細な事由を解き明かすのは今後の課題であろう。

今回の朝鮮労働党大会に何も目新しい点はなかっただって? とんでもない! そんな事を言ってる者は今の朝鮮民主主義人民共和国という国家についても、朝鮮民族の文化や歴史についても何も分かってはいないのだ。政治についても文化についても何一つ!

今回の党大会は朝鮮民族の姓氏にまつわる歴史・文化研究という側面からも非常に興味深い事例が、断片的ながらも発見出来たと言えるだろう。もちろんこれはそういう珍しい姓の人物が高官になったという偶然の産物であり、意図したものではないだろうが、歴史・文化研究としては大変意義があったと評価出来る。この記事を書いている時点で、筆者の見た範囲では南のその手(姓氏や族譜)の研究者でこの新しい労働党中央委員会候補委員の「努光鉄」という人物の姓氏に言及しているのを見た事がないが、これはどうした事かと思う。こうした文化・歴史研究にこそ南北の協力が必要ではないか!
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