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【怪作列伝 괴작렬전】「我是中国人李小龍」~アナグラム侍

  

 
「我是中国人李小龍」
著者 胡紹権
発行 大渡出版有限公司
2014年4-5月にかけて隔週で全4巻刊行














香港漫画というと一昔前では「パクリもん」というイメージが定番でした。日本など外国の漫画や映画などのキャラを著作権無視で勝手に使うという「剽窃作品」が当たり前のように出版され、かなり混沌な様相を呈していたものです。もっとも当時の日本の一部出版関係者の間では、人気のあるキャラクターが一つの作品に「チャンポン共演」するという、今で言う所の「クロスオーバー」状態を密かにうらやむ者も少なくなかったとか…。一方では皮肉な事に、そうした「剽窃作品」のおかげで元ネタ作品の知名度が上がり、そうした元の商品が香港でも売れるようになったという例もあります。そうした場合は元ネタ作品の権利を持つ企業も無闇に訴えたりはせず、黙認する事もありました。その最たる例がカプコンの人気格闘ゲーム「ストリートファイターⅡ」の「剽窃作品」である「街頭覇王」ではないでしょうか。当時よく「池上遼一っぽい絵のストⅡ漫画」と言われて話のネタになっていたあれです。

 
 


90年代初頭、格闘ゲーム人気草創期に忽然と香港に姿を現したこの「街頭覇王」(略称は「街覇」)は日本のゲーム雑誌「ゲーメスト」でも取り上げられた事で日本のゲームファンに広く知られる事になりました。この作品は香港で爆発的な人気を博して現地のストⅡ人気を大いに高めたばかりか、他にもいくつかアジア諸国で翻訳出版されています。筆者の知る限りではインドネシアと韓国でも出版され、特に韓国語版は部数が少なかった事もあって今では奇書中の奇書とも言うべきレアアイテムでしょう。

 
 
 
 
 
 
 
▲日本ではあまり知られていないが、「街頭覇王」にはストⅡだけでなく、餓狼伝説や龍虎の拳といったSNKのゲームキャラも多数登場していた。後の「クロスオーバー」作品を10年以上先取りする形になっていたのは何たる皮肉か。今のSNK(プレイモア)が些細な事で大掛かりな裁判を起こして、日本のパロディや創作活動そのものに打撃を与えかねない真似をしでかしているのを見ると隔世の感がある。かつての旧SNKは同人誌などのパロディにもかなり寛容だった。ちなみに「街頭覇王」作中での餓狼キャラはギースとタンフールーを除き、格下扱いであっさりやられる場面がほとんど。ギースとタンだけはかなり強い。

「街頭覇王」は初期の格闘ゲームファンに大きなインパクトを与えましたが、その具体的なストーリーは日本でほとんど知られていません。日本でも街覇の画集(カプコン許諾済み)が商業出版されて簡単なストーリー説明がそこに載りましたが、それは様々な理由で曖昧な書き方をした不正確なものでした。これは、この漫画にはストⅡ以外にも他社製ゲームや漫画のキャラが結構重要な役回りで登場する為、そうした部分を端折って説明せざるを得なかった為でしょう。筆者は先日ゲームレジェンドにて「街頭覇王」第1巻の日本語訳をようやくお披露目する事が出来ましたが、今後とも続きは出していくつもりです。続きは年末のコミケにて。
いずれにせよ、香港でこうした「剽窃作品」がまかり通っていたのは一昔前の話であり、今では格闘ゲームの漫画化作品なども正式にメーカーから許諾を取って描かれています。街覇のヒット以後はそうした正式ライセンス作品が主流になったようで、色々な意味で街覇という作品は香港漫画にとって大きな分岐点になったと言えるでしょう。もっともこれによってかつての「剽窃作品」特有のハチャメチャさが香港漫画からなくなったのは寂しくもありますが…。

今回は街覇がメインのお話ではないのでこのネタはこれぐらいにしておきますが、こうした香港での「正式にライセンスを取った漫画化作品」というのはゲームの漫画化に限った話ではなく、他にも様々なキャラクター商品で行われています。中でも香港で一つのジャンルになっているのは「ブルース・リー(李小龍)もの」でしょう。
かつて香港カンフー映画の大スターでありながら若くして亡くなったブルース・リーは、今でも伝説的なアクションスターとして多くの人々の記憶に残っています。それ故にでしょうが、香港では許諾を受けてブルース・リーを主人公にした漫画を描く事が今でも行われており、その内容はリーの伝記物からオリジナルストーリーまで様々でした。実写映画は俳優本人が死んだらもう新作は作れませんが、漫画であればこれからもいくらでも可能なので、ある意味商売としては賢いやり方かもしれません。作品発表当時に存命人物であったかどうかという点を除けば、日本でも梶原一騎がよくやってた手法です。伝記物といっても事実をありのままに描くのではなく、膨らました面白おかしい「伝説」として描くのですから。

そうした「ブルース・リーもの」の中でも最近出版されて目を引く作品がありました。それが今回取り上げる「我是中国人李小龍」という漫画です。題名を日本語にすると「我こそは中国人・李小龍なり」といった所でしょうか。
この作品の内容は、ブルース・リーが渡米して武術家及び映画俳優として名を成していく過程を描いたもので、その途中で悪の道に走ったリーの旧友との関わりと葛藤、行く手に立ちはだかる犯罪組織との対決といったフィクション要素をふんだんに盛り込んで物語は展開していきます。しかしながらそこは香港漫画。かつてのような著作権無視の「剽窃作品」ほどではなくとも、風刺と諧謔に富んだダイナミックさはより進化・深化して生き続けてきました。本作も例外ではありません。この漫画の怪作たる所以は、やはり実在人物をネタにした「そっくりさん」にあるでしょう。ここではその中から2人を取り上げてみたいと思います。ただし他にも明らかに実在の著名人モデルがいると思われるキャラが何人かいるのですが、元ネタが分からなかったのでそうしたものは残念ながら省きました。そうしたキャラの元ネタが分かる方がいましたら御教示いただけると幸いです。
まずは1巻末から登場するこの人、犯罪組織「黒手党」の北米支部長・「羅禮士(ノリス)」です。


と言うか、誰が見ても分かるようにチャック・ノリスその人です。いや、実際にノリスはリーと「ドラゴンへの道」で共演してその対決シーンは有名ですが、それって映画の中の話だよ。ノリスが犯罪組織の幹部としてリーと対決とか、もはや伝記もののエリアをはみ出してます。
だが、羅禮士(ノリス)もこの作品のそっくりさんキャラの中ではまだまだ甘い。日本の読者にとってはこれよりもっとインパクトのあるそっくりさんキャラが登場するのですから。いわばこの作品を日本で紹介するにあたって最大の「売り」とも言うべき登場人物です。そのキャラとは…犯罪組織「黒手党」の幹部にして司庫(経理係)、柔道9段の使い手である「三倍晋安」だッッッッ!

  
▲犯毒集団司庫・三倍晋安 誰だよ、おまえ? 犯罪一筋、この道しかないッッッッ!

見てお分かりの通り、某国首相の名前と容姿を容易に連想させるキャラクターで、何が三倍なのか良く分かりませんが、「消費税いつかは三倍に」という暗示なのかもしれません。多分。
何よりも強烈なのはこの某国首相似のキャラクターが犯罪組織の幹部という役回りで登場し、その人となりを極めて辛辣に表現している所でしょう。このくだり最高!
「為人表裡不一、口是心非、偏偏柔道修為極深、達到九段的教頭高手。」
筆者は中国語は専門でないので正確には訳せませんが、「その人となりは表裏があり、本音と建前が違い、事もあろうに柔道を大変深く修め、九段の達人の域に達している」といった所でしょうか。柔道の腕前はともかく、この性格描写については実に爆笑ものではないでしょうか。まるで某国首相を見ているようだ!(笑)
さらに笑えるのは以下の頁でしょう。

 
組織の首領の葉巻に火を付けながら「自分に命令を下されば、この三倍めがブルース・リーをすぐにやっつけに行きます(という意味だと思う。多分。以下本作セリフの訳はあまり正確ではないと思うので御了承下さい)」という三倍晋安。ここで三倍晋安は首領の事を「主公」と呼んでおり、これはおそらく日本語で言うと「殿」というニュアンスなのだと思います。日本人の犯罪組織幹部(くどいようですが某国首相似)が組織の首領の事を「殿」と呼んで阿附追従している…。それを見た組織の同僚幹部にしてフィリピン格闘技マノマノの達人「亜畸楽(アギラ これも多分実在のモデルがいると思うのですが、ちょっと分かりません)」は「は…主公(殿)だって? おまえ自分が黒澤明の侍とでも思ってんのか? 笑わせる。日本の侵略者の軍国主義は決して死なずか!(日本鬼的軍国主義就是不死!)」と皮肉をチクリ。それに対して三倍晋安の反応は

「三倍晋安面皮極厚、対嘲諷置若罔聞」(三倍晋安はツラの皮が分厚く、嘲笑われても聞き捨てている)

これが何のネタなのかは明白でしょう。某国首相も2013年にアメリカはハドソン研究所での講演で「私を右翼の軍国主義者と呼びたいのなら、そう呼んでいただきたいッッッッ!」と「面皮極厚」にも開き直ってましたよねえ…。作者の胡紹権氏最高! これには日本の浜岡賢次もかなうまい。

で物語終盤、黒手党はめざわりなブルース・リーを倒す為にその息子を人質に取り、「返して欲しければレイクサイドヴィラまで来い」というメッセージを送って来ます。指定の場所へやって来たリーを待っていたのは犯罪組織の兵隊達。そのザコどもが蹴散らされた後に姿を現したのは組織の幹部アギラと我らが三倍晋安でした。三倍晋安は東洋刀(日本刀)を抜き、ブルース・リーはそれにヌンチャクで挑む! 

  
▲東洋刀を振りかざす柔道九段の日本人武術家・三倍晋安に、双節根で挑む李小龍

  
リーはヌンチャクで三倍晋安の刀を叩き落し、その隙に顔面を一蹴。続いてトンファーを持ったアギラがリーに襲い掛かる!

 
だが、アギラもリーの敵ではなかった。そこへ背後から奇襲を試みる三倍晋安。

 
それもあっさり返される。恐れをなした三倍晋安は「我投降、不要打…」とあっさり降参。退場シーンはずいぶんと情けなかった。

この「我是中国人李小龍」という作品において三倍晋安の出番はそれほど多い訳ではありません。が、その描写は実に「見事」の一言ではないでしょうか。毒が効いてて。三倍晋安に関する以下のような本文中のセリフや記述は日本でも拡散させて流行らせたくなるくらいです。とりわけ日本という国が今や国家まるごと「犯毒集団」と化している現実を考えると、実に味わい深い。

「為人表裡不一、口是心非」
「日本鬼的軍国主義就是不死」
「三倍晋安面皮極厚、対嘲諷置若罔聞」

時が流れ、香港漫画もかつてのような著作権無視の衝撃的な内容から、どこにもあるような版権許諾作品に移り変わって、インパクトが薄れたのは確かです。それでも香港漫画の一大特色ともいうべき切れ味の鋭い風刺と諧謔の精神は死なずに生き続けている、そんな事を本作は教えてくれているのではないでしょうか。
登場するキャラクターの人選が光る。普通絶対考えつかない。
語られるセリフと記述のセンスが光る。普通絶対考えつかない。
日本の漫画から消えて久しい、そんな気概を読み取るべきでしょう。他のアジア諸国の作品を「日本のパクリ」と称して馬鹿にする事しか知らなくなった日本人こそ、心を入れ替えて他者から学ぶ姿勢が必要だと思います。だいたい「パクリ」だ何だ言うのであれば、日本の同人誌だって同じようなもんなのですから。

注:この記事だけ読むと本作の主人公が誰なのか分からなくなりますが、これはれっきとしたブルース・リーが主人公の漫画です。「我是中国人李小龍」であって、「我是日本人三倍晋安」ではありません(笑)。

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