韓国のオーマイニュースで連載されて大好評を博した「在米同胞おばさん北朝鮮へ行く 재미동포아줌마, 북한에 가다」という記事がある。最初に連載された時はオーマイニュース史上最高の閲覧数を記録して書籍化もされ、その後また再訪朝した際の事を記した続編記事も去年から今年にかけて連載されて、やはり好評を博した。著者はシン・ウンミ 신은미という米国籍の韓国人女性で、筆者も今まで何度かこの記事を紹介した事がある。著者によれば日本の出版社からも翻訳出版の話があったらしいが、その後何の音沙汰もない事から没になったのではないかと思う。
この旅行記はなかなか感動的な内容で、元は大変保守的で反共的な家庭に育った著者が旅行好きの夫にくっついて北部祖国すなわち朝鮮民主主義人民共和国へ観光旅行に行き、現地を実際に見て回る事で北に対する偏見が解けて民族意識に目覚めていく過程が綴られた良い内容であった。筆者も知人の同胞に閲覧を勧め、実際に読んだ人は大体みな「感動的だった」と感想をもらしていた。未見の方は今からでも一読をお勧めする。
「在米同胞おばさん北朝鮮へ行く 재미동포아줌마, 북한에 가다」記事一覧(韓国語記事)
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/Issue/series_pg.aspx?srscd=0000011008
が、しかし…。
著者シン・ウンミは現在韓国に来て各地を講演して回っている所なのだが、この度韓国法務部はシン氏(とその夫)の再入国を拒否すると発表した。以下オーマイニュースの記事参照。
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0002057112&PAGE_CD=ET000&BLCK_NO=1&CMPT_CD=T0000
「再入国拒否? 家から追い出されたよう
総合編成チャンネル、蝿の群れのように駆け寄って魔女狩り」
【インタビュー】「講演発言問題」在米同胞シン・ウンミ氏
実は最近になってシン氏の講演内容が「北の事を礼賛するなど、国家保安法違反の疑いがある」として、国情院だか警察だかが内偵しているというニュースがあったのである。今の情勢を考えると、彼女もヤバイのではないかという心配はしていた。もちろんシン氏は米国籍者という事もあり、軍事政権時代のように在日の留学生を「北のスパイ」だとでっち上げて無理矢理しょっ引いては拷問するような事はさすがに出来ないだろう。が、その代わりに今後氏を入国拒否するような事は起こり得るのではないかと予想はしていたので、前回の記事でもその事を指摘しようと思っていたがすっかり忘れてしまった。そしたら案の定だ。後出しジャンケンのように聞こえるかもしれないが…。
シン氏を逮捕拘留したり強制退去にしなかったのは、さすがに国連で北の人権問題決議があった矢先だったからと思われる。国連決議に勢いを得て「北は人権侵害国家」「北の核なんか恐れずに圧力を」と国を挙げて右も左もなく勇ましくはしゃぎ回っている最中に「国家保安法違反容疑で在米韓国人を逮捕または国外強制退去」なんて事になったら、「国際社会」から批判を受けて、南北どっちが「人権侵害国家」なのか分かんなくなっちゃうじゃないですか(笑)! 時期が時期だけに、南も世間の目を気にしてはいるのだろう。そうでなかったら間違いなく国家保安法を適用して、少なくとも強制退去くらいにはしていたのではないか。それでもこの「再入国拒否」というのが事実上の強制退去である事は言うまでもない。二度と来んな、という事だから。
いずれにせよ、南が今凄まじい事になっているというのを、誰にも分かるほど満天下に晒してくれた出来事ではあるまいか。今後は在外同胞でも北に友好的・融和的な奴は入国させないという事なのだから。在外同胞の統一運動は全てシャットアウト、本人の思想信条関係なく北に行った履歴があるだけでも入国拒否という事に将来的にはなるのではないか。いや、在外同胞どころか国内人への従北狩りと国家保安法適用はさらに激増するだろう。どこらへんが「表現の自由」「民主主義国家」なのか分かったもんじゃない。
シン・ウンミ氏の発言で問題になったのは「北のビールが美味かった」「北の川は水がきれいで、南の4大河川のようにオオマリコケムシもいなかった」「現地の若い女性同士で酒を飲んでた」とかそういう話で、その程度の事を言っただけで「国家保安法(旧治安維持法)違反容疑」「北の事を礼賛した」「利敵行為」だと国情院や警察や法務部が騒ぎ立て、挙げ句が「再入国拒否(事実上の国外追放)だ! てめえは二度と来んな!」である。今の大韓民国に多様性だの民主主義だの人権だのありはしない。
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