張成沢の失脚については朝鮮民主主義人民共和国の当局発表がなされた事で、それが事実である事が確認された。これの詳しい分析については
統一ニュースの鄭昌鉉氏の記事が詳しいので、そちらをお読みいただきたいと思う。今回も
つるを備忘録が該当記事を日本語訳してくれているのが実にありがたい。多くの日本の読者に貴重な記事が読めるようにしてくれているこのブログには頭が下がる。以下、日本語訳でも韓国語原文でもお好きな方で一読をお勧めしたい。
・日本語訳
張成沢の失脚説は不正不敗の根絶と中央党の世代交代へのシグナル
鄭昌鉉の金正恩時代の北朝鮮を読み解く(32)
張成沢粛清をどう見るか(上)
【鄭昌鉉の金正恩時代の北朝鮮を読み解く】(33)
張成沢粛清をどう見るか(下)
・韓国語原文
장성택 실각설, 부정부패 척결과 중앙당의 세대교체 본격화될 듯
<연재> 정창현의 ‘김정은시대 북한읽기’ (32)
장성택 숙청, 어떻게 볼 것인가?
<연재> 정창현의 ‘김정은시대 북한읽기’ (33)
「(33)張成沢粛清をどう見るか」は原文記事では1回の記事だが、日本語訳では上下に分けて掲載されているので注意。
今回の粛清劇が朝鮮国内と周辺国との外交にとって持つ意味は上記記事の通りだ。ではこの「張成沢失脚」は日本とその住人にとってはどのような意味を持っているのだろう。
まず広く知られているように、張成沢という人物は先代最高指導者(金正日)の義弟であり、当代最高指導者(金正恩)にとっては叔父という、向こうでは最高の姻戚関係を持った大物であるという事だ。かつて張成沢が南を訪問して様々な企業や工場を視察に行った際、やはり北の最高位高官達が何人も同行したのだが、彼らでさえ張成沢のいる前では煙草一本吸う事が出来なかったという。それだけの大変な権勢を誇っていた。にも関わらず、様々な不正行為のかどで失脚・粛清されたのである。今の朝鮮では様々な経済改革が行なわれている最中であり、当然それに伴う経済的不正行為なども少なからず発生している事だろう。張成沢のような最高指導者の家系に連なる大物ですら、そうした不正があれば見逃さないという「見せしめ」の効果は絶大だ。これによって(少なくとも表向きは)自国の社会的・経済的公正さを示したと言える。海外企業が朝鮮に投資する際、様々な経済的法整備や取引運営の不備や不公正さがよく問題視されてきたが、今回の件はそれを意識した部分も大きい。
翻って日本ではどうか? 仮に天皇や安倍晋三や石破茂の近親者が何か重大な不正を仕出かしたとして、それを逮捕して厳罰に処す事が出来るだろうか? 答は言うまでもあるまい。それどころか日本では特定秘密保護法などというとんでもない法律が成立し、これによって権力者の不正腐敗が日の目を見たり、それが罰せられる事はますます難しくなるだろう。この悪法の成立によって(少なくとも表向きは存在した)自国の民主主義や報道表現の自由、社会的・経済的公正さなどの仮面は完全に打ち捨てられたも同然ではないか。
張成沢という最高位の大物を処罰・粛清してまでも、綱紀粛正を進める朝鮮民主主義人民共和国。
特定秘密保護法というトンデモ法を制定してまでも、権力の悪事隠蔽を進める日本国。
果たしてどちらがまともなのか。
この間、特定秘密保護法の反対運動など見ていても「この法が通ったら、日本は北朝鮮みたいになる」と騒ぎ立てる者はそれこそ腐るほどいたが、「日本は北朝鮮を見習え。そして安倍や猪瀬を公職から引き摺り下ろしてブタ箱へぶち込め」と主張する者は見た事がない。
特定秘密法が通ったら日本が北朝鮮みたいになる? 何を言っているのか。「日本が北朝鮮みたいになる」のを一番嫌がっているのは、他ならぬ自公政権の方だ。
だって北朝鮮のように張成沢のような大物すら不正のかどで厳しく粛清されるような世の中になったら、一番困るのは安倍や石破らの方じゃないですか! 今をときめく(笑)猪瀬直樹なんて北朝鮮の地方自治体首長だったら、はっきり言って首がいくつあっても足りません!
こうした日本の為政者・特権階級者達が果たして「日本が北朝鮮みたいになる」のを望むだろうか。
「張成沢失脚後の朝鮮」と「特定秘密保護法成立後の日本」ほどかけ離れた体制の国はない。
はっきり言って、特定秘密保護法案を反対するのに「日本を北朝鮮みたいにするな」と言った時点で負けは確定していた。この法案に賛成していた政治家は誰一人としてそんな事は考えていなかったのだから。皮肉な事に、これに賛成する政治家で法案の狙いを最も正確に述べていたのは石原慎太郎だったではないか。「この法律でモサドのような組織を作れ」と。モサドは人殺しでも拷問でも何でもありの、それこそ最悪の国営テロ組織であり、それを持つイスラエルという国が周辺アラブ諸国を侵略しまくってきた、どれだけ恐ろしい秘密主義で徹底した国である事か! 大日本帝国そっくり! 「日本を北朝鮮みたいにするな」と見当違いに騒いでこの法案に反対してきた連中は、慎太郎にすら及ばなかったのである。負けて当然だ。
日の丸を掲げた脱原発デモが政府や電力会社にとって何のダメージにもならないように、「日本を北朝鮮みたいにするな」と主張する特定秘密保護法案反対運動など、国家権力にとっては何の痛痒も感じない。それどころか自分らへの応援エールにすら聞こえただろう。
「だって俺、張成沢のような高官すら不正摘発で失脚しかねない国なんてやだもん。日本をそんな北朝鮮みたいな「不正に厳しい国」にするつもりなんて全然ないもん。そもそも特定秘密保護法案ってそういう法律じゃないから」
というのが安倍や石破や猪瀬らの本音ではないか。反対する側の多くもロクでもない勘違いをしており、それをまた
小熊英二や
五野井郁夫のような新手の御用学者が助長させるのだから始末におえないし、反対運動が実を結ぶはずもない。こうした形で社会運動へ実際に入り込み、トロイの木馬や獅子身中の虫の役割を果たす所もまた、小熊や五野井の御用学者としてのもう一つの
「新しさ」だと思う。
繰り返すが、「張成沢失脚後の朝鮮」と「特定秘密保護法成立後の日本」ほどかけ離れた体制の国はない。「日本が北朝鮮みたいになる」「日本を北朝鮮みたいにするな」などという歪んだ愚かな優越感に浸った見当違いのスローガンは反権力・反政府運動の牙を抜き、権力の不正腐敗を助長させる効果しかもたらさない。日本の民衆がこういう水準でいる限り、今後とも特定秘密保護法と同等かそれ以上の悪法の成立を相次いで許すしかなく、「自民党千年王国」はますます安泰だろう。
PR