江戸幕府を倒してそれに取って代わった(つまり現在の日本国=大日本帝国の濫觴である)薩長土肥の領袖達は天皇の事を何と言っていたか知っているか?
「玉(ギョク)」である。
天下の覇権を狙う野心家連中にとって天皇とはまさに手中の玉、他の対抗勢力にひけらかして自分達こそ正統派・官軍だという事を証明する為のパスポートみたいなものだった。
これは長い日本の権力闘争の歴史の中で、藤原氏の摂関政治以来千数百年にわたって続いて来た慣例と言うか不文律のようなもの、すなわち天皇制が古代・近代・象徴と表看板は変わっても、その間に一貫して保持されてきた重要な核心要素の一つと言って良いだろう。
藤原氏の摂関政治、平清盛の平家政権、源頼朝と鎌倉幕府、新田義貞と足利尊氏が覇権を争った「太平記」南北朝の時代、その後に足利政権として確立した室町幕府、三好一族や織田信長・豊臣秀吉などの有力戦国大名、徳川家康と江戸幕府、そして明治維新から現在に至る大日本帝国=日本国…。いずれも時の天下人や覇者達は「天皇=玉」を擁する事で自己勢力の正当化を図った。
しかしながら、ここで忘れてはいけない重要な要素がある。
「天皇=玉」を自陣営に取り込めばそれで誰でも官軍になれる訳ではない。
天下を窺える力、すなわち政治力・財力・武力などを一定水準備えている者でなければ、この「玉」を手にしても無用の長物に過ぎないという事だ。例えば…。
戦国時代、織田信長が京都を含む日本の半分以上を領有して最大勢力となった状況を仮定しての話をしてみよう。その時、どこぞの者とも知れぬ田舎の小大名の配下がこっそり京都へ侵入し、天皇をさらって自国へ連れて行ってしまいました。その小大名こそ「天皇=玉」を手中にしました、天子様の後見人です、と。ではその小大名が新たな天下人・戦国の覇者という事になるのだろうか?
ならない!
この場合、信長は間違いなく大軍を送ってその小大名を皆殺しにし、力ずくで天皇を奪い返すまでの事だ。
力のない者が天皇だけ自分の所に引っ張って利用しようとした所で、屁の突っ張りにもなりはしない。
あるいは、いかに信長といえども天皇を「人質状態」にしている相手を軽はずみに攻撃出来ないのではないか、と反論する向きもあるだろう。
だがそのような事はない。
仮に天皇が戦火の巻き添えで死んだりその小大名に連れられて脱出したとしても、京都にいる天皇の子や親族の中から新しい天皇を擁立すれば済むだけの話だ。信長の大先輩である足利尊氏だってそうしたよ(笑)。北朝と光明天皇…。
平家対源氏、新田義貞対足利尊氏、今川義元・織田信長・武田信玄など成否問わず上洛して天下を取ろうとした有力戦国大名、徳川幕府対薩長土肥などなど…のように覇権を目指して相争う陣営の勢力差が比較的小さい場合は「天皇=玉」を手中にする事で流れが大きく変わる事もあり得る。だが彼我の力の差があり過ぎる場合は、そんなの関係ないのだ。力のない奴が「天皇=玉」を取ったって全く意味ない。
このように「天皇=玉」とは限られた特権階級の占有物であり、力のない者や「下々の皆さん(by 麻生太郎)」には元より天皇を政治利用出来ないよう、システム自体がそうなっているのである。
石牟礼道子は水俣病患者の面会に来た天皇・皇后夫妻と会い、涙を流さんばかりに大感激しちゃったという。
山本太郎は園遊会で天皇に原発問題に関する手紙を直訴して、今世間では大騒ぎになっているという。
この二つは天皇制の本質を理解していない弱者(つまり天皇を利用出来ない立場・階級の者)が仕出かした愚行の典型例と言って良いだろう。
「力なき者及び特権階級にあらざる者の天皇の利用は出来ず」
この原則を知らぬ社会的弱者はしばしば「陛下にお願いすれば」「天皇こそ日本の本当のリベラル」という勘違い(と言うか、はっきり言えば奴隷根性)から致命的な誤謬を犯す。
先代の天皇はある時期から靖国神社への参拝をやめた。
今の天皇は即位時に「憲法を守る」と宣言した。
今の天皇は日の丸・君が代を押し付ける東京都教育委員の将棋指しに対し「強制でない方が望ましい」と指摘した。
これらを知った日本の左派・リベラルと呼ばれる人々の多くの反応はどうだったか。異口同音に「天皇すら靖国には参拝しないじゃないか」「天皇こそ護憲派じゃないか」「天皇でさえ君が代・日の丸強制に反対してるじゃないか」と言って賛同しただろう。それどころか「安倍晋三と靖国宮司に告ぐ、勅命が発せられたのである。既に、天皇陛下の御命令が発せられたのである」などと言って、まさに自分こそ天皇の忠臣と言わんばかりの態度をとった愚劣極まりない自称左派まで珍しくなかった。
それでどうなりましたか?
天皇が靖国に参拝しないからといって、国会議員はもちろん一般国民の靖国参拝がなくなりましたか?
天皇が憲法を守るからといって、自衛隊海外派兵などの違憲行為がなくなりましたか?
天皇が日の丸・君が代の強制は望んでないからといって、そうした強制行動が学校はもちろん日本社会のあらゆる所でなくなりましたか?
答は言うまでもありませんね。
靖国参拝、違憲行為、日の丸・君が代強制のいずれも今の日本では大フィーバー状態です!
力なき者・特権階級にあらざる者が天皇を利用する事は出来ないが、利用される事は出来る。
いや、利用しようと近付いたはずが逆利用されるよう仕組まれているのだ。それが天皇制の巧妙なシステムである。左派が「富田メモ」を見て「そら見た事か。右翼こそ天皇に逆らう逆賊だ」と騒げば騒ぐほど、逆に靖国神社が大繁盛していったように。
弱者や特権階級にあらざる者が天皇を利用する事はあり得ず、ただ利用されるのみ。
安倍晋三は「水俣病を克服した」と宣言し、その直後に天皇夫妻が熊本を訪問して患者達を「慰労」した。この天皇夫妻訪問に加担したのが他ならぬ石牟礼道子だった訳だが、この訪問こそまさに「安倍が言う所の水俣病克服」の決定打・総仕上げとなるのは間違いないだろう。今後水俣病患者の前途に待っているのは「天皇御夫妻まで面会してくれたのに、まだ文句を言うのか」という冷たい攻撃だ。水俣病の補償だ何だと騒ぐ奴は「朝敵・国賊」となり、それを恐れて患者達はむしろ声を上げられなくなるだろう。文句を言う奴がいなくなれば、水俣病などないも同然。
ここに「水俣病の克服」は成った!
患者達にはもはや「かすかな希望」どころか「大いなる絶望」しか待ち受けていないだろう。
安倍の「水俣病克服宣言」と天皇夫妻の「水俣病患者面会」と石牟礼道子の「天皇夫妻への阿附追従」は見事なまでの三点セットにして、ナイスコンビネーションなのだ。
はっきり言って石牟礼道子がこれまでやって来た事を全否定したい心境だが、この人物は元々東京のチッソ本社へ抗議に行った際、二重橋にも行って「天皇陛下万歳」を叫んでしまうような者だった。
天皇に対してどこまでも「退く! 媚びる! 省みる!」姿勢であり、天皇の御威光にすがって問題の解決を目指した所が石牟礼の限界だったのだろう。天皇を頂点とする天皇制国家こそ水俣病の最大の元凶にして根源だという本質に向き合えなかったのだから。それも最後の最後に一番ひどい事をしてくれたものと思う。
「きさまはこの日本の地に流れる天皇の制度に負けたのだーーーーーっ!!」という天皇と安倍とチッソの勝ち誇ったセリフが聞こえてきそうな気がする。
山本太郎についても全く同じ事が言える。
東京オリンピックの決議の時にはなかなか気骨があると思ったが、これまた早々に限界を露呈したという感じだ。してみると山本が一人でもオリンピックの決議に反対出来たのは「いざとなったら天皇に直訴」と考えていたからかもしれない。己が天皇を利用出来ると錯覚した勘違い野郎という意味では、2.26事件の過激派将校と同じで幼稚な発想の持ち主に過ぎなかったのではないか。
元より山本太郎は天皇を政治利用出来るような御身分・階級ではない。安倍や麻生や小泉とは違って。山本の行動に対して「政治利用」云々言う事自体が間違っている。山本は天皇を利用しようとして逆に利用されるという、天皇制の網に引っ掛かった単細胞に過ぎない。
元より社会的強者・特権者のおもちゃである天皇を、「下々」の人間が利用出来るだとか、それに問題解決を託すという発想自体が間違っている事にいい加減気付かねばならない。天皇制のシステムってそんな風には出来てないから。
天皇に跪いて解決と慈悲を乞う靖国問題。
天皇に跪いて解決と慈悲を乞う日の丸・君が代問題。
天皇に跪いて解決と慈悲を乞う憲法問題。
天皇に跪いて解決と慈悲を乞う水俣病問題。
天皇に跪いて解決と慈悲を乞う原発問題。
どれもこれも反吐が出るほど気持ちの悪い倒錯の極みだ。こうした天皇への帰属行為が何らの問題解決にもつながらず、むしろ悪化させる事だけは100%保証出来る。
ある世界では今や天皇に準ずる存在であるのが小泉純一郎だろう。この男が「原発ゼロ」を口にしただけで夥しい数の人間がそのおこぼれに与ろうと寄り集まってきた。まさに小泉という「玉」を手中にして優位な立場を得ようという野欲丸出しで、右は自民党の河野洋平や生活の党の小沢一郎から左は社民党や共産党に至るまでだ。今やすっかり右傾化した「脱原発市民運動業界」でも小泉に媚びまくる動きが盛んである。たんぽぽ舎など最たるものだ。
今の小泉は「準天皇」「第2天皇」みたいな訳で、典型的な天皇制の縮図が見て取れる。あまりにも日本らしい。
だがここで再び思い出して欲しい。
「力なき者及び特権階級にあらざる者の天皇の利用は出来ず」
「力なき者及び特権階級にあらざる者が天皇を利用しようとすると、かえって必ず逆利用される結果を生む」
という天皇制の核心的システムを。
社民党や共産党、あるいはちっぽけな日本の市民運動体が、小泉純一郎という「準天皇」を都合良く利用出来るものだろうか?
出来ない!
現状、自民党と共産党・社民党などの勢力差は、それこそ最盛期の信長とどこぞの者とも知れぬ田舎のマイナー大名ぐらいの開きがある。国会の議席数見りゃ分かるでしょうが。
顔と名前が一致しない社民党の新党首が小泉と会談した所で、あのように軽くあしらわれるのは当たり前の話である。恐れ多くも「禁裏」におわす「小泉天皇」にしてみれば、織田信長か武田信玄クラスの大勢力ならともかく、社民党のごときちっぽけなマイナー大名が「上洛」してきた所でけんもほろろに扱うだろう。
この件ではかつての政敵(?)だった社民党と会ってやった小泉の「度量」と、みじめに小泉に媚びへつらう社民党の無様さが世間的に際立って目立っただけだ。社民党にとってプラスになった事は何もない。
社民党が小泉に連携を乞う事自体が大きな間違いなのだ。
石牟礼道子、山本太郎、社民党、共産党、それにたんぽぽ舎はじめとする「脱原発運動業界」界隈。いずれも皆、言ってる事とやってる事が何重にも間違っている。
「下々の皆さん」に天皇(とそれに類する存在)など利用出来ない。天皇を食い破り、打破・打倒する事でしか道は開けない。
今の「天皇=玉」は誰の手中にあるのか。それを考えればすぐに気付く事だろう。
その「玉」を奪って己が使おうなどとは夢にも思わない事だ。仮に将来、天皇制を利用出来るだけの力を手に出来たとしてもである。
「天皇制によって排除されてきた者・人間としての尊厳も生活も奪われて来た者」が真に人間として生きる道は、天皇制の特権者一員に加わる事ではなく、制度そのものの破壊にしかない。
1) 今韓国で起こっている「親日派復権運動」
今現在の韓国では恐ろしい勢いで親日派の「復権」のごとき動きが起こっている。先日オーマイニュースで報じられていたが、韓国各地の学校で親日派だった創始者の銅像が建てられているという。あるいは過去に批判を受けて撤去されたものが再び復活したりしている。
前に取り上げた国史編纂委員長の問題や、「韓国版つくる会」教科書の検定通過など、韓国でもこうした歴史修正主義の動きが恐ろしいほど活発だ。こうした動きは金大中や盧武鉉の時は世間の目を気にして鳴りを潜めていたものの、李明博になってから再び盛り返し始め、今の大統領になってからさらに加速度を増した。そりゃあそうだろう。今の大統領の親父からして親日軍人だったのだから。
日本ではほとんど知られていないが、歴史問題において今の韓国政府と日本政府はほとんど共同歩調と言っても良いくらいの共通行動を行なっている。過去の侵略戦争・植民地支配・軍事独裁正当化が共通テーマだ。朴槿恵がいくら海外で「日本の歴史認識」を問題にしても、そのような発言はイカサマも良い所だ。その裏で自国内では必死に親日派の復権や植民地近代化論の普及に努め、それに邪魔となる統合進歩党や全教組などを非合法化させようと躍起になっている。今の韓国は「新・維新政権時代」なのだ。騙されてはいけない。
2)在日同胞おじさん、(朴槿恵を阿附追従しに)南朝鮮へ行く
재일동포 아저씨 (박근혜를 아부추종하러) 남조선에 간다
今やすっかり有害無益な妄言吐きへと転落した河信基だが、さらに恥の上塗りとしか言いようのない仕事をまたやるようだ。
https://twitter.com/hashingi/status/390993391250464768
九分後に羽田飛行場からソウルへと飛びます。新たな本を出版する予定です。今の韓国の状況をつぶさに見てきますので、またお会いしましょう。無事に帰れたら、22日夜には羽田空港にいるはずです。
2013年10月17日 - 17:11
韓国の現状をレポートするらしい。この男がどんな事を本にするかは、出すまでもなくすでに推測がつく。何せこんな事を言ってるのだから。
https://twitter.com/hashingi/status/390001703983906817
夕刊フジが「韓国財閥破綻続出」と韓国経済が今にも潰れるかのようなイメージ操作。脱税、不正融資などで財閥関係者が摘発されているのは、朴槿恵政権の公約・経済民主化の一環。韓国財閥は父親の朴正煕大統領時代に育成し、裏まで知り尽くし遠慮がない。対中貿易が日中貿易減少分を吸収し、絶好調。
2013年10月14日 - 23:30
間違いなく河の新刊とやらが恥ずかしい「朴槿恵政権下の大韓民国ヨイショ本」になる事だけは間違いないだろう。大体「朴槿恵政権の公約・経済民主化の一環。韓国財閥は父親の朴正煕大統領時代に育成し、裏まで知り尽くし遠慮がない」とか本気で言ってる訳? だとしたらよほどの馬鹿か、悪質なペテンとしか言いようがない(たぶん後者)。朴槿恵がまともに財閥を規制して「経済民主化」をやってるなんて、そもそも信じてる馬鹿が本当にいるのかという話だろう。経済民主化・福祉・南北関係など民衆の生活に直結する諸公約はことごとく反故にされて、それに反する事ばかり進行中というのは誰の目にも明らかであり、低賃金・労働環境悪化など朴槿恵政権発足後ますますひどくなるばかりだというのに。
それプラス、前述のような親日・独裁賛美と反共・反北扇動の強化は目を覆わんばかりだ。その結果はどうだろう。たとえば日本で頭の足りない人間が「自分らが貧しいのは中国や韓国のせいだ」と言って社会問題の根源から目をそむけているように、今の韓国でも「自分らが貧しいのはアカや北のせいだ」と言う者が増えつつあると聞く。
韓国の対中貿易にした所で、今後の情勢次第ではこれも日本と同じ目に遭うだろう。米日と一緒に派手な軍事訓練を繰り返したり、済州島の海軍基地を作ったりしたら中国との関係がどうなるかは明らかではないか。韓国の対中貿易も日本のそれと同じで薄氷の上で危ういバランスを保っているに過ぎない。
まあ、だからこそ向こうの実情を知らない日本の読者を誑かす本を書こうというのだろう。「日韓新時代・日韓未来志向」の為に「朴槿恵は日本にとっても良い大統領だ」という事を宣伝するのではないか。河信基はその広報役を担って生き残ろうとしているのである。これが若い頃は総連でバリバリの活動家だったとは…。
安田浩一や姜誠などと同じで、河信基は韓国や日本の本当に正さねばならない問題を黙殺・棚上げする、すなわち「社会問題や歴史認識の一致を求めない点で一致することによる連帯」へ本格的に加担しよう、それが時代のトレンド処世術なんだ、という認識なのだと思う。
いずれにせよ、この朴槿恵の腰巾着である「在日同胞おじさん」が果たしてどのような珍書(と言うか偽書)を出すのか、今からある意味で非常に楽しみではある。
(続く)
やなせたかしが94歳で死んだそうだ。これは長生きし過ぎたと言って良いだろう。実際、筆者の目にやなせたかしはひどい老害作家にしか思えなかった。西原理恵子などのゴマすり取り巻きを相手に偉そうな「訓示」を垂れている姿ほど醜いものはなかったろう。この老人がエロ漫画を度々攻撃して漫画の表現規制に利するような事をしていたのは、生前の「罪」としてはっきり記憶しておかねばならない。やなせの言動には「国民的童話作家である俺様はエライ」という臭みが常に漂っており、そうした意識が「低俗なエロ漫画」への卑下や攻撃につながっていたのだと思う。
やなせのエラソーな態度がにじみ出た典型例が以下のインタビュー記事だ。
http://www.news-postseven.com/archives/20110503_18844.html
やなせたかし氏 日本人の正義とは困った人にパン差し出すこと
「つまり、正義を行う人は自分が傷つくことも覚悟しなくてはいけない。今で喩えると、原発事故に防護服を着て立ち向かっている人々がいます。自分たちが被爆する恐れがあるのに、事故をなんとかしなくてはという想いで放射能が満ちた施設に向かっていく。あれをもって、「正義」というのです」
この記事には他にいくつも突込み所があるが、一々指摘してたらキリがないので上記発言にしぼって論じる。現実問題として今の福島原発事故処理作業員というのは、大部分が仕事がなくてやむを得ずヤクザの手配師に連れてこられたような人々だ。そこにあるのは困窮した社会の最底辺で苦労する人々が、国や電力会社やヤクザに追い打ち掛けられるように搾取されて使い捨てにされている光景だけである。あそこの作業員達が被爆しているのは食っていく為に嫌々そうせざるを得ないからで、「事故をなんとかしなくてはという想いの『正義』」などではない。食って生きるのに十分な人間が、どうしてあんなこの世の地獄へ行くものか! やなせたかしの作品世界(「世界観」にあらず)に当てはめて言うならば、福島原発でヤクザにピンハネされて低賃金で働く被爆作業員達というのは、アンパンマンに助けてもらわねばならない弱者の立場である。それを「ヒーロー」にすり替える辺りに、やなせたかしのどうしようもない思い上がりというか強者の醜悪な優越感がにじみ出ていると思う。インタビューでやなせは次のようにはっきり言っているではないか。
それに正義って、普通の人が行うものなんです。政治家みたいな偉い人や強い人だけが行うものではない。普通の人が目の前で溺れる子どもを見て思わず助けるために河に飛び込んでしまうような行為をいうのです。ただし普通の人なので、助けに行って自分が代わりに溺れ死んでしまうかも知れない。それでも助けざるを得ない。
これまた実にありがたいやなせたかし先生の「ヒーロー理論」だ。これを福島原発事故現場に当てはめると以下のようになるだろう。
政治家みたいな偉い人や強い人が行くものではない。普通の人が目の前で事故を起こしている原発を見て思わず作業現場に飛び込んでしまうような行為をいうのです。ただし普通の人なので、助けに行って自分が放射能で死んでしまうかも知れない。それでも行かざるを得ない。
やなせはあたかも「普通の人」達にあの危険な現場へ行って働けと言っているようにしか聞こえない。それでも「普通の人」達は「正義」の為に福島事故現場で働かざるを得ない、と。この理屈は1945年以前の日本人が嫌というほど叩き込まれた話だという事を我々はよく知っている。若者を神風特攻隊へ送り込む時の理屈に何とそっくりなのかと思う。戦前の日本も「政治家みたいな偉い人や強い人」とその子弟達は戦争に行かなくて良かったが、「普通の人」達は「おまえ達はお国の為に戦う英雄(英霊)になるんだ」と言われて戦場に駆り立てられて犬死した。現在でも福島原発事故に責任のある「政治家みたいな偉い人や強い人」の子弟は誰一人現場作業員として働いていないが…。
噂だが、福島原発の現場はあまりに過酷で、最近は働きたがる者も減ってきていると聞く。あまり想像したくはないが、このまま行けば将来福島の現場で働く者を強制的に狩り出す制度が出来てもおかしくはない。もちろんそうなれば、真っ先に狙われるのは社会的弱者である。やなせたかしが生前言った事は、そうした事を正当化する為に最大限利用されるだろう。「現代版カミカゼ」を正当化・奨励する為に。
原発作業員とは本来ならばヒーローに助けてもらわねばならないような弱い立場なのだ。だが、彼らを救いに来るヒーローなど現実には決して存在しない。
やなせたかしの人を見下した「功成り名遂げた金持ちの正義」は、結局のところ自身の戦争体験に起源があるのだろう。やなせも若い頃に徴兵されて中国へ行った事は広く知られている。しかし問題は、戦後に大日本帝国とあの戦争をどう受け止めたかである。上記記事ではあの戦争に対するやなせの感想を次のように書いていた。
やなせ:「アンパンマン」を創作する際の僕の強い動機が、「正義とはなにか」ということです。正義とは実は簡単なことなのです。困っている人を助けること。ひもじい思いをしている人に、パンの一切れを差し出す行為を「正義」と呼ぶのです。なにも相手の国にミサイルを撃ち込んだり、国家を転覆させようと大きなことを企てる必要はありません。アメリカにはアメリカの“正義”があり、フセインにはフセインの“正義”がある。アラブにも、イスラエルにもお互いの“正義”がある。つまりこれらの“正義”は立場によって変わる。でも困っている人、飢えている人に食べ物を差し出す行為は、立場が変わっても国が違っても「正しいこと」には変わりません。絶対的な正義なのです。
やなせ氏は第二次世界大戦では砲兵として中国に駐留していた。大東亜共栄圏の美名のもと「正義の闘い」だと信じていたものが、戦後、侵略戦争だと知った。「天皇陛下万歳」と叫んでいた者たちが「民主主義」に走り去っていく姿も見た。全ての正義が相対化されていくなかで、絶対的な正義とは何か考えていって、突き当たったのが飢えに苦しんだ兵隊時代の記憶だった。そこから「自分を食べさせて人を救う」ヒーローが生まれた。
後段部分はインタビュアーである記者の叙述であり、そこでやなせは日本の戦争が侵略であった事を戦後に知ったとなっている。なるほど、やなせもあの戦争が侵略戦争であった事自体は一応認めている訳だ。だがやなせたかしという男の「正義」に対する考えとは一貫して「相対化」だった。「アメリカにはアメリカの“正義”があり、フセインにはフセインの“正義”がある。アラブにも、イスラエルにもお互いの“正義”がある」ならば大日本帝国と天皇にも“正義”がある、という話にしかならないではないか。あれだけひどい侵略戦争と植民地支配を行なった日帝と天皇もまた「正義」で片付けるやなせたかしの言い草こそ、日帝の犠牲者に対する酷い冒涜であり、筆者のような在日朝鮮人すなわち日帝被害者の末裔には絶対に許し難い。「でも困っている人、飢えている人に食べ物を差し出す行為は、立場が変わっても国が違っても「正しいこと」には変わりません。絶対的な正義なのです」というならば、よその国を侵略して植民地にしたり、その為に自国の社会的底辺の人々をも兵隊に狩り出して犬死・特攻させる事はどうなのか。それこそ「立場が変わっても国が違っても「悪いこと」には変わりません。絶対的な悪」ではないのか。だが、やなせたかしはそれを決して「絶対的な悪」とは言わずに、「正義の相対化」で逃げた。歴史を直視出来ない臆病者だったのである。やなせは典型的な「戦後社会の日本人」という言い方も出来るかもしれない。
やなせたかしと一番良い比較対象は俳優の天本英世だろう。天本もまた若い頃戦争に取られた身だったが、そこで体験して感じた事はやなせとは全く正反対だった。
http://www.mammo.tv/interview/archives/no007.html
なんのために生きているのか?とたずねられたら、なんと答えますか?
自分が生まれ、一生の間にしたいことをする。それだけだ。だからスペインに住みたいとは思っています。とにかく日本人には哲学がないんだ。なんのために生きるか。生きているとは何か。教師も何を教えていいかわからない。
文部省も僕らが小さい頃と同じだ。ばかばかしいことの再生産で、「君が代」を歌えなんて言っている。僕は日本のすべての俳優を引き連れて「君が代」反対のデモをやりたいくらいだ。「君が代」なんてバカの骨頂で、僕は全然天皇制なんて認めない。昭和天皇は戦争責任者の最たる者だった。
こういうことはテレビでしゃべっても全部カットされるんだ。そうしたことがあるかぎり、日本人はいつまでたっても精神的に自立できない。天皇や天皇制について議論さえしないんだよ、日本人は。
兵隊に取られて軍隊で酷い目に遭った天本は、戦後徹底して君が代や天皇を嫌うようになった。「昭和天皇は戦争責任者の最たる者」として日帝の悪をはっきりと認識したのである。間違っても天本は「“正義”は立場によって変わる」などと寝ぼけた事は言わなかった。
日帝と天皇を「絶対的な悪」と認識した天本英世と、「アメリカにはアメリカの“正義”があり、フセインにはフセインの“正義”がある。アラブにも、イスラエルにもお互いの“正義”がある。“正義”は立場によって変わる」などと言って日帝と天皇の戦争犯罪を明確な悪とみなそうとしなかったやなせたかしの差は大きい。
今日本は急激な右傾化・軍拡化が進んでおり、それに対する国民の警戒心を薄れさせる大衆娯楽作品が巷にあふれている。「ガルパン」だの「艦これ」だの「名探偵コナン」だのは典型例で、これらの中には実際に自衛隊が全面協力しているものも少なくない。もちろん「ガルパン」や「艦これ」は非常に問題だが、これらよりもはるかに大きな害毒を放ち続けたのは実はやなせたかしではないかと筆者は考える。どこまでもオタク層向けに過ぎないこんな作品達よりも、アンパンマンのやなせたかしの方が比較にならない影響力を誇るのは言うまでもなかろう。
やなせたかしが94歳で死に、世間ではこれの冥福を祈る声があふれている。だが筆者はこんな男の死に間違っても冥福など祈らない。やなせたかしという「水に落ちた犬」の偽善は今こそ徹底してぶっ叩くべきなのだ。このような男があたかも「子供達に夢と希望を与え、平和を祈り、大震災の被災者に勇気を与えた」という偽善の本質を撃つべきと思う。それをありがたがってきた者も深い自己省察が必要だ。
君が代を「裏声で歌へ」というのが相応しいならば、アンパンマンのマーチは「逆再生で歌へ」というのが死後のやなせたかしには相応しいと考える。
裏声で歌へ君が代。
逆再生で歌へアンパンマンのマーチ(笑)。
最近やたらとマスコミで吹聴されている訳の分からない話と言うか怪談の一つが「日韓関係悪化」「日韓緊張」というネタだ。朴槿恵政権と安倍晋三政権は発足後も依然として首脳会談すら行われていない、日本でも韓国でも互いの事を嫌う風潮(嫌韓・反日)がはびこっている、だから今の日韓関係は最悪で異常な事態だ…としたり顔で言う。以下のニュースは典型例の一つだろう。
http://news.livedoor.com/article/detail/8152966/
「大統領、その辺にしておいたほうが…」 朴槿恵「日本無視」に韓国メディアからも懸念
上記ニュースではいかに今の韓日関係が「異常」か、朴槿恵はいかに従軍慰安婦などの歴史問題で日本に「非妥協的」な態度をとっているか、をとくとくと書き記している。
え? 朴槿恵が従軍慰安婦問題で日本に「非妥協的」な姿勢だって? そんなん初めて聞いたわ!
じゃあ、その「日本に非妥協的な朴槿恵」は何で韓国でも有数の植民地近代化論者である柳永益(유영익 ユ・ヨンイッ)を国史編纂委員会委員長に据えたんでしょうかねえ? 前にも書いたが、この柳永益は「従軍慰安婦は強制動員ではなく、自発的な海外就業のようなもの」という日本の右翼が泣いて喜びそうな事を主張しているバリバリの親日派なんだが。
さらに言えば、今韓国の南海では韓米日の合同軍事訓練が行われている最中だ。言うまでもなくこれは朝鮮に対する侵略戦争訓練兼挑発行動である。もちろん日本の憲法9条にも反する、堂々たる違憲行為だ。ちなみに近頃話題になってる社民党の党首選では、目の前で現在進行中のこの堂々たる違憲行為についてどちらの候補も全く言及しようとしなかったが…。
これが2013年10月現在の韓日関係である。韓国は植民地近代化論者に「国史」を書かせてまで日本の植民地支配正当化に歩み寄り、さらに日本・アメリカと一緒に北朝鮮侵略の為の軍事訓練まで仲良くやっている。一体これのどこが「日韓緊張」なのか? 今の韓日関係は、仲良く軍事訓練するほど最高に良好な関係である!
「朴槿恵はアメリカで日本に対する従軍慰安婦関連の不満をぶちまけた」という話がまことしやかに報じられているが、そんなものは八百長プロレスか無気力相撲の類でしかない。近い将来首脳会談をする時に「これだけの対立を乗り越えて日韓の首脳が手を結んだ」という絵図を作って盛り上げる為の事前準備演出というか地ならしという事だ。柳永益の国史編纂委員長就任、韓米日合同軍事訓練、そして日本側の「東京大行進」や「のりこえねっと」に代表される「民族と国境を越える和解運動」などはいずれも朴槿恵と安倍の首脳会談を盛り上げる為の壮大な舞台装置という事である。
日韓関係は現在全く悪化などしておらず、実際にはむしろ戦後最高に良好な共犯・癒着関係にある。騙されてはいけない。
真に日本の植民地支配を清算し、民族差別に反対し、憲法9条を守りたいというならば掲げるべきスローガンも行動方針も簡単なほど明白ではないか。
「韓米日共同軍事訓練反対!」「日韓首脳会談反対!」「朴槿恵訪日反対!」「安倍晋三訪韓反対!」「朝鮮学校への無償化適用と補助金支給を!」「今言われているような『東京大行進的日韓和解(笑)』などクソ食らえ!」
80年代の中曽根康弘訪韓時と情勢は全く変わっていないどころか、むしろ悪化している。中曽根訪韓反対運動の事を今一度思い起こさねばならない。
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