先日ふれた「在米同胞おばさん北朝鮮へ行く」の著者シン・ウンミ氏のその後についてだが、恐ろしい事になっている。シン氏はその後すぐには出国しない事にして韓国各地を回って講演を続け、朴槿恵との面会まで公式に要請するなど、むしろ積極的な対応に乗り出していた。が、ついに起こるべき事が起こったというべきか。右翼のテロである。それも犯人は高校生だという。講演の最中に手製の爆弾を投げ付けられ、止めに入ったスタッフ2人が負傷した。
http://poweroftruth.net/column/mainView.php?kcat=2013&table=impeter&uid=700
シン・ウンミコンサートに爆発物テロ犯、「高校生、日刊ベスト会員」(真実の道)
注:日刊ベスト(イルベ)とは右翼の書き込みであふれてる「韓国版2ちゃんねる」とも言うべき向こうの巨大掲示板の事。
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0002061598
シン・ウンミに向かって高3が爆発物投擲 目撃者「背後に成人男性いる」(オーマイニュース)
上記記事はいずれも韓国語記事。
シン氏夫妻に怪我はなかったが、止めに入ったスタッフ2人はかなり酷い火傷を負っている。上記「真実の道」紙の記事に載っている写真を見ると、1人はほぼ全身に近い火傷だ。下手をしたら死人が出てもおかしくなかったのではないか。
日本でも引きこもって2ちゃんねるばかり見ていた男が「中国が攻めてくる」と乱心して包丁振り回した挙げ句に家族を怪我させたという事件が2005年にあったが、韓国でも右翼掲示板に熱中した高校生が爆弾テロに走った。まさに「日韓仲良くしようぜ」を地で行く事件であろう。極右化してるとされる日本に決して劣らず、韓国でもその手のイカれた連中はもはや珍しくも何ともなくなってしまったようだ。韓国の極右・ニューライト団体はテロ犯の高校生を「英雄」扱いして救援キャンペーンを始め、募金活動までやり始めたという。まあこの手のカンパ詐欺というのは日本でも韓国でも珍しくないから…。某NKとか。
また、警察は被害者であるシン氏を出国停止にした挙げ句、国家保安法の疑いで取り調べるという訳の分からない事までしている。被害者と加害者が完全に逆転しているのだ。朴槿恵もシン氏の講演を「北の住民の悲惨な生活像や人権侵害に目をつむる偏向した従北コンサート」と名指して非難しており、大統領自ら「従北狩り」を煽り立てている訳で、これほど恐ろしい話はない。つまり朴槿恵は、石丸次郎みたいな北朝鮮報道以外は「偏向」だと言いたい訳だ。良かったじゃないか石丸次郎! 恐れ多くも韓国の大統領から間接的に激賛されちまったじゃないか(笑)! シン氏は米市民権者という事もあり、韓国といえども無茶な事はしないだろうと筆者は思っていたが、これは甘かったようだ。下手をするとシン氏も国家保安法違反で逮捕されて酷い取調べをされる事になりかねないのではないか。つまりシン氏が「21世紀の徐勝」になる可能性も小さくないと思う。今の韓国と日本は本当に何をするか分からない恐ろしい国であり、これは決して誇張表現や冗談ではない。
また、韓国社会が急速に右傾化の傾向を強めた大きな原因の一つはハンギョレや京郷新聞・プレシアンといった進歩派メディアにもある。こういった連中は2012年の総選挙後に統合進歩党に対して「従北キャンペーン」を恐ろしく熱心にやった。それこそ右派の朝鮮日報よりも激しく。ハンギョレやプレシアンが当時統合進歩党に対して何と言っていたか。「統合進歩党は従北主義をやめろ」「統合進歩党は李承晩並みの不正選挙をやった」「統合進歩党は国民にとって有害な党」といった根拠のない誹謗中傷のオンパレードだった。そうでなければ統合進歩党に対する解散審判も起こり得なかったし、シン・ウンミ氏に対する今回のテロだってなかっただろう。それが今になって「民主主義の危機だ」「表現の自由が脅かされる」だのと言うのだから笑わせる。プレシアンのある編集委員は自分の記事で「保守マスコミの魔女狩り式従北レッテル貼りに相当部分の責任がある」などとすっとぼけた事を言っているが、こいつ自分らの事を棚に上げてよくこんな事が言えるなと思う。この編集委員は昔はもう少しまともな事を言っていて、筆者もそうした記事を翻訳紹介した事もあったが、今は本当にどうしようもない。
「北を礼賛する奴」はこうして暴力で黙らせる。大韓民国という国が50年代60年代の李承晩・朴正熙の時代から何一つ進んでいないという恐ろしい現実が、またしても露になった事件とも言えよう。それと1945年以後も本質的には戦前と何も変わっていない日本という「東アジアの双子の極右」は現在、どちらがより過激な右翼かを競い合うチキンレースの真っ最中だ。将来は日韓が一緒になって戦争に走り、東アジアの平和を乱す事になるのは間違いないだろう。
確かに日本と韓国は「同じ価値観」を共有した国だ。ただしその価値観とやらは間違っても「人権・民主主義・多様性尊重」などといったものではない。それらを抑圧して踏み潰す「特定秘密保護法・共謀罪・国家保安法的ファシズム」こそ日本と韓国が共有する最大の価値観にして「日韓共同の家」であるという事だ。しかしながらその事に両国の民衆はほとんど気付いておらず、「日本と韓国こそアジアでただ二つの人権と民主主義の先進国。北朝鮮なんかとは違う」と強く信じ込んでしまっているところが喜劇だろう。
韓国で起こったばかりの右翼テロ事件と、日本で起こったばかりの茶番劇選挙を同時期に見てそんな事を思った。2年前の年末に日本と韓国で大きな選挙(日本総選挙、韓国大統領選挙)が同時期に重なった時も同じだったような気が…。
韓国のオーマイニュースで連載されて大好評を博した「在米同胞おばさん北朝鮮へ行く 재미동포아줌마, 북한에 가다」という記事がある。最初に連載された時はオーマイニュース史上最高の閲覧数を記録して書籍化もされ、その後また再訪朝した際の事を記した続編記事も去年から今年にかけて連載されて、やはり好評を博した。著者はシン・ウンミ 신은미という米国籍の韓国人女性で、筆者も今まで何度かこの記事を紹介した事がある。著者によれば日本の出版社からも翻訳出版の話があったらしいが、その後何の音沙汰もない事から没になったのではないかと思う。
この旅行記はなかなか感動的な内容で、元は大変保守的で反共的な家庭に育った著者が旅行好きの夫にくっついて北部祖国すなわち朝鮮民主主義人民共和国へ観光旅行に行き、現地を実際に見て回る事で北に対する偏見が解けて民族意識に目覚めていく過程が綴られた良い内容であった。筆者も知人の同胞に閲覧を勧め、実際に読んだ人は大体みな「感動的だった」と感想をもらしていた。未見の方は今からでも一読をお勧めする。
「在米同胞おばさん北朝鮮へ行く 재미동포아줌마, 북한에 가다」記事一覧(韓国語記事)
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/Issue/series_pg.aspx?srscd=0000011008
が、しかし…。
著者シン・ウンミは現在韓国に来て各地を講演して回っている所なのだが、この度韓国法務部はシン氏(とその夫)の再入国を拒否すると発表した。以下オーマイニュースの記事参照。
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0002057112&PAGE_CD=ET000&BLCK_NO=1&CMPT_CD=T0000
「再入国拒否? 家から追い出されたよう
総合編成チャンネル、蝿の群れのように駆け寄って魔女狩り」
【インタビュー】「講演発言問題」在米同胞シン・ウンミ氏
実は最近になってシン氏の講演内容が「北の事を礼賛するなど、国家保安法違反の疑いがある」として、国情院だか警察だかが内偵しているというニュースがあったのである。今の情勢を考えると、彼女もヤバイのではないかという心配はしていた。もちろんシン氏は米国籍者という事もあり、軍事政権時代のように在日の留学生を「北のスパイ」だとでっち上げて無理矢理しょっ引いては拷問するような事はさすがに出来ないだろう。が、その代わりに今後氏を入国拒否するような事は起こり得るのではないかと予想はしていたので、前回の記事でもその事を指摘しようと思っていたがすっかり忘れてしまった。そしたら案の定だ。後出しジャンケンのように聞こえるかもしれないが…。
シン氏を逮捕拘留したり強制退去にしなかったのは、さすがに国連で北の人権問題決議があった矢先だったからと思われる。国連決議に勢いを得て「北は人権侵害国家」「北の核なんか恐れずに圧力を」と国を挙げて右も左もなく勇ましくはしゃぎ回っている最中に「国家保安法違反容疑で在米韓国人を逮捕または国外強制退去」なんて事になったら、「国際社会」から批判を受けて、南北どっちが「人権侵害国家」なのか分かんなくなっちゃうじゃないですか(笑)! 時期が時期だけに、南も世間の目を気にしてはいるのだろう。そうでなかったら間違いなく国家保安法を適用して、少なくとも強制退去くらいにはしていたのではないか。それでもこの「再入国拒否」というのが事実上の強制退去である事は言うまでもない。二度と来んな、という事だから。
いずれにせよ、南が今凄まじい事になっているというのを、誰にも分かるほど満天下に晒してくれた出来事ではあるまいか。今後は在外同胞でも北に友好的・融和的な奴は入国させないという事なのだから。在外同胞の統一運動は全てシャットアウト、本人の思想信条関係なく北に行った履歴があるだけでも入国拒否という事に将来的にはなるのではないか。いや、在外同胞どころか国内人への従北狩りと国家保安法適用はさらに激増するだろう。どこらへんが「表現の自由」「民主主義国家」なのか分かったもんじゃない。
シン・ウンミ氏の発言で問題になったのは「北のビールが美味かった」「北の川は水がきれいで、南の4大河川のようにオオマリコケムシもいなかった」「現地の若い女性同士で酒を飲んでた」とかそういう話で、その程度の事を言っただけで「国家保安法(旧治安維持法)違反容疑」「北の事を礼賛した」「利敵行為」だと国情院や警察や法務部が騒ぎ立て、挙げ句が「再入国拒否(事実上の国外追放)だ! てめえは二度と来んな!」である。今の大韓民国に多様性だの民主主義だの人権だのありはしない。
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