「朝鮮日報」北朝鮮集団デモ? 「確認されていない」
「連合ニュース」なども「北でジャスミン革命可能性」相次いで報道
記事入力2011.02.24午前11:40:25
統一部は北朝鮮でも数百人規模の反政府デモが発生したという一部報道に対して「確認された事項はない」と明かした。
統一部当局者は24日「貨幣改革以後、民生と関連した小規模の抗議などはあったと伝わっているが、集団デモ形態と見なせる動きがあったという状況は捕捉されていない」として「このような判断は関係機関の協議を通じたものだ」とした。
中東・アフリカの民主化デモが北朝鮮にも影響を及ぼすかという点について、この当局者は「状況を鋭意注目している」としながらも「短期的に影響は大きくないと見る」と言った。
この日「朝鮮日報」は先週、北朝鮮新義州地方で数百人の商人達が保安当局に抗議するデモを行い、北朝鮮では国家安全保衛部と軍部隊を動員して過酷に鎮圧したと報道した。
同紙は北朝鮮専門インターネット媒体「デイリーNK」を引用して、金正日国防委員長が中東民主化デモの影響を憂慮して暴動鎮圧用特殊機動隊を作れという指示を下したという「内部消息通」の証言も同時に伝えた。
「連合ニュース」も前日、米国の「自由アジア放送(RFA)」を引用して「北住民、抵抗
騒擾頻発…前保安署長被殺」という題の記事を送り出し、この日も「尋常でないように見える北住民抵抗…異常徴候?」などの記事を書いた。
郭チェフン記者
(訳 ZED)
韓国語原文記事はこちら。
http://www.pressian.com/article/article.asp?article_num=40110224112826§ion=05
とりあえずプレシアン記事の速報という事で急ぎ翻訳記事を載せておきます。むやみやたらと「北朝鮮国内で騒動が起こっている」という類の記事に用心すべきというのは、賢明な方であればこれまでの経験上承知の事とは思いますが。日本と韓国ではある種の人間達の「願望」をあたかも「事実」であるかのようにトバシて騒ぐ連中が腐るほどいますから、もう少し冷静に状況を見ましょう。何しろ、連中の情報源は「デイリーNK」だぜ(笑)。アジアプレスや石丸次郎と仲の良いお友達の。
はっきりしているのは、現時点で韓国政府当局は「北朝鮮大規模デモ」報道を未確認としており、今の所はこれが一番確実で正しい情報だという事です。
先日、かつて三星(日本での呼称はサムスン)財閥を追求して勇名を馳せながら、後に考えを180度転向させて腐敗堕落した韓国のあるジャーナリストのお話をしました。が、世の中は不思議な物で、三星財閥をめぐってはこのジャーナリストと全く逆の人生を歩んだ人間がいたのです。検事を退官後に弁護士になり(韓国にももちろんヤメ検弁護士はいます)、そして三星グループの法務チーム長に天下りしたこの人物は、しかしながら後に三星を退職して良心宣言をし、その不法行為を告発する書を世に出しました。その人物の名を尋ねれば金勇澈と答えました…。
陰と陽、仁王像に阿と吽、暗殺拳に北斗神拳と南斗聖拳といったように、万物はすべからく一対をなして構成されているとはよく言われますが、まさに三星財閥を告発した人間にも北斗と南斗のように全く性格の逆な一対の韓国人が存在していたのです。
かつて1988年に「韓国三星財閥の内幕―巨大企業の暗黒と李一族の野望」を出し、それまでも民主化運動陣営に属して活動してきた孫忠武というジャーナリストは、しかしながら後に最も卑劣な振る舞いをして転向する事になりました(2010年に米国で病死)。
一方、ソウル地検特捜部首席検事だった金勇澈という検事はそれと全く逆で、弁護士になって三星財閥の秘書室(ここは創業者・李秉喆の時代から会長の社命を伝達するグループの事実上の司令塔でした)に入り、法務部チーム・財務部チームの理事として働きながら、2004年に退職。2007年に天主教正義具現全国司祭団の助けを得て「転向」と言うか良心宣言して、それまでの三星グループが行った不正行為を告発したのです。そして問題の書「三星を考える」(2010.01.29社会評論発行)を出版しました。以下のリンク先は韓国の代表的なネット書店「アラジン aladin」の同書通販頁です。
「三星を考える」金勇澈 著
http://www.aladin.co.kr/shop/wproduct.aspx?ISBN=8964350502&partner=pressian
韓国にはアマゾンがなく、代わりにこうしたネット書店が主流を成しているようでした。同書刊行時は日本でもそれなりに話題になったようなのですが、なぜか翻訳出版もされずに現在に至っています。これこそ訳すべき特ダネのはずなのですが…。一応最初の一部だけを訳しているブログがあったので参考までにリンクを貼っておきます。
http://plaza.rakuten.co.jp/tsuruwonya/diaryall
こういう手堅く売れそうな良書には見向きもしない辺り、株式の非上場化で話題になっている幻冬社もあんまり大した事ないなという気がします(ぬるま湯体質の岩波書店とかに比べたらそれでもまだ面白い作家や本を発掘する努力をしているとは思いますが)。
いや、筆者がアジアプレスに対しては何にも期待してないのは今さら言うまでもない事ですが(笑)。連中がこれと同じくらいに三星財閥を追求したら、それこそ太陽が西から昇るのと同じくらいの驚天動地な出来事ですよ。でもそんな驚天動地な事を実際にやってのけたのが金勇澈という弁護士だったのです。
週刊金曜日も「企業社会の不正」をテーマに飯を食って来た佐高信をトップに据えていた事があるくせに、こういう所へ神経が回らない辺りがどうしようもありません。それとも日本企業のセブンイレブンジャパンと違って、韓国企業の三星では批判本を出してもゼニが引っ張れないからか(笑)。
上記韓国ネット書店アラジンの同書通販ページに書かれている紹介文は以下の通り。
2007年、大韓民国を騒がせた「三星疑惑」告発の主人公・金勇澈弁護士の本。「三星を考える」という題名のこの本は「弁護士・金勇澈が真ににしたい話」というコピーを掲げている。本の内容の一部は良心告白当時にすでに公開されたもの達だ。そこへ金勇澈弁護士が7年間働いてみて体験した三星に対する話を付け加えている。
金勇澈弁護士がしたいという話は本の隅々で見つける事が出来る。三星に入社する前、彼が持っていたグローバル企業の幻想は全て崩れた。彼は三星が仕出かした不正を無数に目撃した。彼を苛んだのは三星が不正を仕出かしたという事実ではない。むしろ日常的に行われる不正こそが三星が存在する根拠の一つだという事実、それが彼を苛ませた。
彼は尋ねたかった。先進経営と世界的な競争力だけで三星を作れないのか? 三星はすでに韓国企業の範疇を超えている。今日の三星を築く為に、ただ前だけを見て走って来た。ならば、まさに今こそ暫し三星を再考せねばならぬ時ではないか? 金勇澈弁護士は読者達が自身の文を通じて三星を考える「時」を実感するようになる事を望んでいる。
(訳 ZED)
こちらは高麗書林の通販頁。日本での注文ならこちらの方が早いかもしれません。ただし全2巻の大部の著なのであしからず。
http://www.komabook.co.jp/search/search_result.php
孫忠武の本が三星財閥創業者・李秉喆の時代から2代目・李健熙への継承までを描いた本であるならば、金勇澈の本はまさに現代の新自由主義・グローバル経済下における三星を描いたものです。三星財閥全体を俯瞰するには両方とも読むのが一番良いのですが、現状の日本人読者には難しいのが歯痒い所でしょう。片や絶版のプレミア本、片や未訳ですから。
しかしながら同書に対する三星側の対応は孫忠武の時代とあまり変わらず、自社系列の中央日報(中央日報は三星系企業)を含む保守三大紙「朝・中・東」はおろかハンギョレ新聞(やっぱ最近のハンギョレは変!)までもが全て広告掲載拒否、ソウル駅の広告まで撤去されたと言いますが、インターネットの時代にそんな事で言論を封じられるはずもなく、かえってネット上の話題を呼んでベストセラーになりました。
そこに描かれた三星財閥の姿はかつて創業者時代の「政商」ぶりが一層激化したものとも言えるでしょう。「不正こそが三星が存在する根拠の一つ」とまで言われるほどに。かつての金権怪物・李秉喆が時の軍事政権を抱き込み、日本の保守・右翼的経済人と癒着して財を成し、それを受け継いだ後代の三星ははたしてどうだったでしょう。
「渉外」という言葉があります。日本の企業社会であればタカリ屋の総会屋やヤクザ・右翼といった反社会勢力(いわゆる「反社」)との窓口になって、それの口止め料を都合する窓口となる総務部の一部署や担当者を指しますが、三星財閥における「渉外」とは力のある高級官僚に対する「賄賂」を指す社内用語でした。そしてグループ総帥・李健熙がグループ社長会議の度に最も関心を示した案件が不動産と「渉外」だったのです。高級官僚への贈賄こそが財閥トップの最も感心を示した案件とは!
(この項続く)
この人の朝鮮半島情勢分析についてはに筆者もこれまで高く評価をしていた(最近はさすがにちょっとおかしいんじゃねえのかという記事も目立ちましたが)のですが、これはさすがにいただけません。
次期韓国大統領有力候補が『朴正煕』を絶賛
http://blogs.yahoo.co.jp/lifeartinstitute/42638092.html
河信基氏は北朝鮮バッシングの吹き荒れる日本で、それも在日のジャーナリスト・評論家としてほとんど唯一見所のある冷静な北朝鮮情勢の分析を行ってきた人士だけに、今回の自画自賛は全く失望させられるものです。いや、筆者も河氏を評価していましたが、朴正煕の評価については全く見解を異にしていました。この人朴正煕を褒めすぎだろと、常々その点に関しては違和感を感じていましたけれど、朴槿恵に褒められて韓国語訳の話が舞い込んだ途端に有頂天ですか。それはいくら何でもねえだろうって話ですよ。
この手のおだて話に気を良くして取り込まれたまま変節したジャーナリストや運動家なんて掃いて捨てるほどいます。今や日本の反貧困運動の「大スター」と化した湯浅誠なんて最近の挙動不審ぶりを見てるとかなりヤバイものがありますし、前にお話した孫忠武なんてそれこそ朴正煕に喧嘩を売って国家保安法違反でブタ箱に何度も入ったほどの記者だったのに、晩年は、それも韓国が民政に移行した途端に旧軍事政権派に裏切って恥知らずな言動を繰り返しました。
また、孫忠武と似た存在である韓国のどーしょーもないジャーナリストに趙甲済という男がおり、日本の右派メディアにも親日派の代表格として度々登場し、日本の拉致問題関係者ともズブズブの関係なので御存知の方も多いでしょう。かつて「月刊朝鮮」の編集長として米国礼賛・日本礼賛・北朝鮮攻撃を繰り返した札付きの男(この男が90年代半ば、日本の細川政権当時に雑誌の対談で小沢一郎と一緒になって「国連の御旗を立てて北朝鮮を爆撃しよう」という暴言を吐いた事を忘れてはいけません。それ以外にもこの男のトンデモ発言は数知れないのでいちいち列挙出来ないほど。「安倍晋三は極右ではなく保守本流」だとか…。おまえ日本の政界の事を何も知らないだろ! ちなみに日本の右翼の間で趙甲済は「韓国の良心的保守派」という事になっているそうです。日本の右翼がこの男をこのように褒める意味、分かりますよね?)ですが、信じられない事にこの男は若い時分は民主派の反権力ジャーナリストとして勇名を馳せた記者でした。韓国各地の大企業による公害問題や、労働運動・民主化運動で職を追われて政府から迫害・抹殺された人々に光を当てて取材するなど、若い頃の仕事は素晴らしかった。朴正煕に対して何度も批判記事を書き、その度に新聞社をクビになったほどです。この男の取材した1980年の光州民主化闘争の記事は、後の1988年に韓国国会で光州事件特別委員会や5共時代特別委員会(5共、すなわち第5共和国の略で全斗煥時代を指す)が開かれるきっかけにもなりました。それほどの活躍をしたのです。
ところが趙は1983年、朴正煕の暗殺事件を取材するようになり、これが変節・転向する最大の転機になりました(日本でも「朴正煕最後の一日」という題で出ています)。その過程で趙は朴正煕の事を「日本の一流教育、米国の将校教育を受けた実用的な人物」だったという「真実」に目覚めてしまいました。あたかもネット右翼が2ちゃんねるの書き込みを見て社会の「真実」に目覚めたがごとく(笑)。挙句の果てには「自分が朴正煕を批判したのは彼があまりに強く、それに対する若気のいたりの反感だった」とまで述べて「転向宣言」をしました。要するに朴正煕は独裁者だったが、それは全て実利主義的な政策であり、韓国を強国にする為にはやむを得ない措置だった、として朴正煕を擁護するばかりか韓国史上最高の大統領だったとまで美化するようになります。
河信基氏のブログや著書を読んだ事のある方はもうお気付きでしょうが、氏の朴正煕観というのは趙甲済に大きな影響を受けています。いや、丸々コピーといっても差支えがないほど瓜二つでしょう。問題は、そうした朴正煕礼賛本を韓国本国の極右記者が書いたのではなく、在日のそれも左派北朝鮮擁護派とみなされてきた人物が書いたという事です。転向後の趙甲済のような人間が朴正煕を褒めた所で何も珍しい所はありませんし、利用価値も大きくありません。が、在日の左派で通って来た河信基氏のような人間が書いたとなれば話は別です。はっきり言って河信基氏の朴正煕本など、趙甲済の書いた本と内容的にほとんど違いがないのですが、しかしその著者が趙甲済とは政治的に全く逆の立場の人間となれば話は大きく違って来るでしょう。趙甲済が褒めるよりも、河信基氏が褒めた方がはるかに朴槿恵の株を上げる事になる訳です。「政治的に逆の人間からも褒められるほどなのか」という印象を与える事になってね。
率直に言って河信基氏に著書の翻訳や朴槿恵との面会をさせるよう思いついた人間が何者かは分かりません。多分、朴槿恵の選挙参謀か何かだと思うのですが、その人物が相当なやり手である事だけは間違いないでしょう。趙甲済のような転向済みの馬鹿右翼でなく、河信基氏のような在日の左派で北朝鮮問題に対しても冷静な分析を行ってきて実績のある人間を利用した方がはるかに効果が高い事に思いつく辺り、相当に韓国の選挙業界でも辣腕を振るって来た選挙屋かもしれません。
それに引き換え、そんなうまい話に飛び付いて釣られる河信基氏の無邪気さって…。確かに氏は今まで良い仕事もずいぶんしてきました(朴正煕に対する評価除く)が、しょせん学者肌でそうした政治に悪用される事の恐さというものを充分に理解してなかったという事でしょうか。北朝鮮や総連組織内部の権力闘争を直に見て来た世代なのですから、そんな事は熟知していると思っていたのですけれど。
はっきり言ってこのまま行ったら河信基氏は朴槿恵陣営の選挙に悪用されて、間違いなく第2の趙甲済に転落します。そもそも朴槿恵という女がどういう政策・思想を持った政治家かよく分かっているのですか? この女は韓国でも代表的なニューライトとして知られているのですよ。はっきり言えば対北政策以外で李明博と違う点など何一つありません。だったら他に良さそうな候補いるでしょ? それでも敢えて朴槿恵ですか?
河先生、今であればまだ引き返す事が出来ます。朴正煕びいきだから娘の朴槿恵も応援する、というのを仮に1兆歩譲って認めるとしても、その大統領選挙にむざむざ利用されに韓国まで出向くのが正しい事なのか。ジャーナリストとしてやって良い事なのかどうかを今一度考え直すべきです。これは河先生の仕事を評価してきた者としての切実な忠告・諫言として受け取って下さい。あなたを辺真一だの朴斗鎮だの金賛汀だのとは違うと思ってきた身としては、これ以上腐った在日2世が増加するのに耐えられないのです。もしそうなったらそれこそ河信基氏の佐高信化でしょう。
失望させないでね。
孫忠武という名を聞いても今の日本の若い人には分からないかもしれません。が、かつて韓国の民主化運動に関わった古株であれば聞いた事のある人は割といるんじゃないでしょうか。この男は韓国のジャーナリストで、軍事政権時代に朴正煕や全斗煥といった大統領達、さらには統一協会や三星財閥(いわゆるサムスン Samsung グループの事。本来ならば「サムスン」ではなく「サムソン」の方がより朝鮮語本来の発音に近い。日本での正式名称とはいえ、あまり不正確な発音表記を筆者は好まない為、当ブログの記事でこの財閥グループについて述べる際は基本的に漢字表記の「三星」を使用します)の批判記事を書いてアメリカや日本に亡命したり国家保安法違反で逮捕された事が度々ある上に、日帝植民地時代の独立運動家であった金九暗殺事件の真相を追究したルポルタージュや関連資料の発掘といった骨太な取材・執筆活動で一世を風靡した記者でした。かつてはね。そう、かつて昔は、です。
その孫忠武が去年の10月19日にアメリカで死んでいたという話をたった今知りました。筆者も久しく忘れていた名前なので、懐かしいとは思いつつも、まあ寂しい終わり方だったなという感じです。特にこの男の若い頃と晩年の「落差」を考えるとなおさらでした。
筆者もこの男の昔の本(日本で出版された金九暗殺事件と三星財閥本の訳書)を持っていますが、確かにあの当時に買っておいて良かったと今でも思います。内容的にも資料的にもかなり充実している上に、それらの多くは現在入手困難なので、大きな図書館でもなければ読めないでしょう。ちなみにそれらの一つにして、この男がジャーナリストとして最も輝いていた頃の代表作の一つである「韓国三星財閥の内幕―巨大企業の暗黒と李一族の野望」(韓国語原書は1988年刊行。日本語版は1990年刊行)という本は今や結構なプレミアが付いているようで、アマゾンの古書出品物を見たら3000円(出版時の定価は税込みで1300円)という値が付いていました。当時もそんなに発行部数が多くはなかったでしょうし、あるいは三星グループ自体が大きく成長して世界的に進出した現在においては、その創業一代記がより一層内容的に見るべき点が多いと評価されたのではないでしょうか。
現在の三星電子では半導体工場労働者に白血病や奇形児出産、自殺が頻発して大きな社会問題となっている(ここ最近のプレシアンではほとんど連日この問題がトップ記事です)一方で、李健熙会長&李在鎔社長のトップ2親子(こうした韓国の財閥経営者世襲も石丸次郎は批判したためしがない! もし一度でもしていたなら誰か教えて下さい)は連日のように江原道平昌郡への2018年冬季五輪誘致活動にばかり熱を上げている有様です。この冬季五輪誘致活動にはもちろん大統領の李明博も積極的で、三星電子の件と併せて日本で全く知られていない現在の韓国のトップニュースの一つと言って良いでしょう。平昌は過去に2度連続して誘致に失敗しており、仮に誘致出来たとしても長野の二の舞にしかならないのは明白なのですが。李健熙は韓国IOC委員も務めており、自社労働者の労働環境や生活を一切省みずにスポーツ道楽と利権に熱中しているブラック企業経営者ですが、こうした三星グループの現在のブラック企業ぶりがどこに源流を発しているのかを知る上でも同書は優れた資料と言えるでしょう。20年以上も前の本とはいえその輝きは今でも色褪せていない、三星財閥を語る上で絶対に外す事の出来ない基礎資料となっています。
とは言え同書は当時韓国で著者と三星の間で裁判になり、最終的に和解で決着が付きながらそこに「韓国では今後出版しない」という条件が付きました。おまけに著者も死んだ以上、日本でも韓国でも今後復刊される可能性はほぼゼロに近いでしょう。いずれの機会に同書の内容は詳しく紹介したいと思います。
また、金九暗殺事件を追及した「暗殺」(韓国での原題は「これが真相だ」という)という本も、才気走りながらも若き日の孫忠武がこの事件を精力的に取材した力作であったと評価出来ます。当時孫忠武は金九暗殺実行犯を取材する為に、医者に変装してその実行犯のいる病院へ(当時この実行犯はある金九支持者の青年に刺されて瀕死の重傷を負い、面会謝絶の状態だった)潜入したほどですから、荒っぽいながらもその記者魂には頭が下がります。何よりも同書に流れるテーマは、日帝植民地の解放直後に多くの独立運動家がテロによって命を落としたり、植民地時代の36年を超えて国が分断している状況を嘆き、韓国の民衆が真の民族的覚醒を経て、民主主義と統一を築かねばならないと強く訴えた事でしょう。当時の著者が同書に込めた意思は今読んでも多くの朝鮮・韓国人の胸を強く打つはずです。
ところが、ところが…。これほどの活動をした記者が後年、特に90年代初頭辺りからどうなったかというと…。
今から約10年近く前、筆者は本屋である新刊書籍を見つけました。表紙を見てみると著者は「孫忠武」とあるではありませんか。「おお、あの金九暗殺事件や三星財閥追及の孫忠武の本か。この人、相変わらず健筆を振るっていたのだな」と思った筆者は、その本の題名に目をやると「金大中・金正日 最後の陰謀」となっていたのを見て非常に嫌な予感を感じました。本を裏返して裏表紙を見てみるとそこにはさらに凄まじい写真が載っていたのです。それは何と著者・孫忠武とジョージ・ブッシュ(9.11の息子の方ではなく、日本の宮中晩餐会でゲロを吐いた親父の方ね)が一緒に並んだツーショット写真という、まさに筆舌に尽くしがたい光景でした。もうこの時点でさすがに今の孫忠武は昔の孫忠武ではないのだという事は100%気付いたのですが、それでも事実を把握せねばならないという殺身成仁の境地で勇気を奮いつつ立ち読みして見た所、その内容は…。
「南北首脳会談は金正日の陰謀である。金大中は隠れ共産主義者で、北朝鮮の手先だ」
という、いつの時代の反共主義者のアジテーション例文集かと言いたくなるような古臭い言葉が長々と書き連ねられていました。これをとうの昔に冷戦が終わり、南北首脳会談までして南北和解へと導かねばならない21世紀に言うとは…。
そう、かつて民主化陣営に属して様々な社会問題を追い、時の軍事政権独裁者や三星財閥、統一協会にまで喧嘩を売ったほどの反骨ジャーナリストは転向していたのです。それも180度と言っても良いほどで、別人にも等しい変貌振りでした。これには現在の姜尚中でさえもびっくりでしょう。
孫忠武が転向するきっかけになったのは、92年に当時の大統領選挙候補だった金泳三の隠し子スキャンダルを暴露したのが始まりと言われています。金泳三は選挙の時に光州虐殺事件の責任者処罰や軍事政権時代の犯罪追及、軍幹部の不正蓄財した隠し口座の凍結、軍の綱紀粛正などを公約に掲げていたので、軍部やそれに近い勢力から総攻撃を受けました(とは言え、金泳三は自由民主主義を標榜しながら、対北政策を見ても分かる通り実際にはかなり保守的性向が強い。また頭脳も基本的に明晰でなく、口先だけの部分が大きい上に嫉妬深い。現在にいたっては完全に老害そのもの)。その一つが隠し子スキャンダルの暴露であり、それをかつて金泳三や金大中の支持者であった孫忠武が担う事になったのです。はっきり言えば孫はかつての同志を裏切り、ジャーナリストとしての矜持もこの時に捨ててブラックジャーナリストの道へのめり込んだのでした。典型的なジャーナリストの転落物語と言って良いでしょう。かつての民主化運動の同志が権力をつかんだ。いかにかつての民主化の同志と言えども、権力者になったからには監視は必要であり、良からぬ点があれば批判するのはジャーナリストとしての社会的使命です。が、孫の金泳三・金大中批判はそのような「ジャーナリストとしての社会的使命」といった崇高なレベルの話ではなく、単なる私欲に目が眩んだ裏切り行為と転向でしかありませんでした。単純な金泳三・金大中批判に留まらず、本人の考え自体が民主主義どころか古臭い反共主義に変貌・退化してしまい、社会の民主化と南北の和解を後退させるような活動しかしなくなったのですから。
このような記者がかつてのようなスクープを飛ばせるはずもありません。
かつての孫忠武は言論弾圧から逃れる為に度々米国へ逃れた事から、ある時期以降は米国に活動の拠点を移しました。孫忠武の子供達は全員米国籍です。そこで「インサイドワールド」という在米韓国人向けの雑誌を創刊、それを後に韓国でも出版するのですが結局それが振るわなかった為にブラックジャーナリスト・取り屋になって晩節を汚す破目に陥ったのでしょう。かつて朴正煕や三星財閥、統一教会にまで喧嘩を売って勇名を馳せた記者が、晩年はブッシュの親父と一緒に写真を撮って無邪気に喜んでしまうなど、まさに想像力の限界を超越した物語です。盧武鉉が自殺した時、この男は「これは全部左派や金大中、全羅道の人間が悪い」という、並の人間であれば想像も出来ないような内容の罵詈を、並外れた口汚い言葉で言った事があります。同じ盧武鉉の自殺について論じても、韓洪九の本とはまさに天と地ほどもレベルの違いのあるものでした。
かつて金九の暗殺事件をルポし、多くの人々に「民族的覚醒」「民主主義」「統一」を訴えた記者が民主主義を否定し、民族の和解・統一を否定するほどにまで変節した様は、しかし油断すれば誰でも陥りかねない落とし穴でもあります。今の日本ではもちろん言うまでもありません。
最近の韓国のスラングではこうした信じ難い出来事を指して「アストラルだ」と言うのですが、孫忠武の晩年はまさにアストラルそのものでしょう。
石丸のツイッターにこんな書き込みがありました。(以下原文ママ)
http://twitter.com/ishimarujiro/status/37509136384004096
サンデーで毎日で350回近く続けて来た「朝鮮半島を読む」の連載が、二月いっぱいで終了することになりました。後続をどこにするのかはまだ未定。
「サンデーで毎日」って何だよと思いますが、要するに例のサンデー毎日でやってる「朝鮮半島を読む」は打ち切られるという事です。まあ、良い事でしょう。この連載がこれまで朝鮮半島、とりわけ北朝鮮に対する誤りと偏見に満ちた情報を垂れ流して日本社会の対北朝鮮観を悪化させ、朝日間の外交関係を破壊して危険な方向へと誘導するのに一定の役割を果たして来た事を考えれば、連載が切られるのはとりあえず良い事です。あまりにも遅きに失した感はありますが。
もちろんこの連載はこれまでに石丸一人で書いて来たのではなく、アジアプレスの記者数人が持ち回りで書いて来ました。その為、執筆者毎に対北朝鮮や在日朝鮮人問題の論調・スタンスに温度差はあったものの、それでも石丸がこの連載でひどい記事を垂れ流し続けてきた罪は重すぎると言えるでしょう。他に穏健な執筆者がいても、むしろそれで石丸の悪質な論調を正当化する役割しか果たさなかったという点で、彼らも同様に罪深いと言えます(特にこれの執筆に関わった韓国人記者達は)。つまり「『朝鮮半島を読む』にはひどい記事も多いが、中には穏健派や韓国人記者も執筆しているのだから」というイメージを読者に与えて、この連載の悪質な部分(この場合は石丸次郎)を許容させてしまう役割を果たしてしまったという事です。佐藤優が週刊金曜日や世界などの左派・リベラル媒体に起用されて悪影響を及ぼすのとほとんど同じ構造ではありませんか。いや、実際にはこうした右翼的・タカ派的論調を左派・リベラル系媒体で展開するという手法は、佐藤よりもむしろ石丸の方がはるかに早かった。石丸は朝鮮半島問題に関して90年代後半辺りからこの手口を使い続けてきたのですから、まさに「佐藤優現象」的な手法の走りだった訳です。
とは言っても、この連載は結局の所北朝鮮と総連の悪口を書き立てる事に終始してきた(とりわけ石丸の担当した回は)に過ぎず、まともに朝鮮半島問題に取り組みたいと思うならほとんど資料的・情報的価値はありません。石丸は今だに北朝鮮住民の配給がどうのこうのと、下種な覗き見趣味全開の記事をあたかもスクープのように大きく取り上げています。そんな事が朝鮮半島の平和構築や朝日関係の改善(植民地支配の謝罪・補償が前提)に何の役に立ちますか? そういう意味で本当に有益な情報やスクープが取れないから、困窮している北朝鮮国民の姿を見世物にするという悪趣味・ゲテモノ記事に走るという事でしょう。石丸次郎はスタンス以前に記者としての腕そのものに問題があるのではないでしょうか。多分本人は「自分ほど腕利きの記者はおらん。自分ほど北朝鮮の事を知ってる者はおらん」と自画自賛して自分に酔っているのでしょうが。
しかし、サンデー毎日で切られても諦めきれずに連載を続ける場所を探しているのですから、何と往生際の悪い事か。それでも老婆心ながら忠告すると、SAPIO辺りがいいんじゃないですかね。ああいう極右雑誌の方がスタンスが100%ぴったり一致してますし、騙されてアジアプレスに変な幻想を抱く人も出て来なくて良い。あるいは週刊金曜日に移籍というのもありうるかもしれません。あそこには石丸だけでなく、綿井健陽のようにアジアプレス関係者がかなり前から出入していたのでつながりはある訳です。やっぱり石丸が佐高信におべんちゃらを言っていたのはその為か? まあ、実際の所は分かりませんが。
でもそんなに連載したけりゃ、別に紙媒体にこだわらず自分とこ、つまりアジアプレスのホームページでやりゃ済むだけの話でしょう。有料にしたけりゃメルマガでやったらいい。石丸は何の為に自前で有料のメルマガを持っているのですか。とは言え、「朝鮮半島を読む」も石丸のメルマガも内容的に変わる所などほとんどないのですから、同じ内容の記事を別の題名で「二重販売」するような事になるのはさすがに問題でしょう。
やっぱり、もうこの時代に「朝鮮半島を読む」など存在価値がなくなったという事です。同じような北朝鮮攻撃記事など、今の日本にはあふれているのですから。そもそも「朝鮮半島を読む」というタイトル自体、小此木政夫や伊豆見元、ロバート・カーリン(ついこの間に北朝鮮の各施設を視察して、朝米対話を訴えたスタンフォードの教授)らが1991年に出した本の書名を剽窃したパクリ物ではありませんか。一応北朝鮮専門家としてそれなりに定評のある先人達が出した本の名前を権威付けに利用したという時点で、石丸らのお下劣なスタンスが窺い知れます。
やはりサンデー毎日の「朝鮮半島を読む」は年貢の納め時という事でしょう。
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